“日本郵政のドン”鈴木康雄・日本郵政上級副社長(日本郵政HPより)
総務省事務方トップ・鈴木茂樹事務次官の更迭が波紋を呼んでいる。この問題は20日、高市早苗総務相がいきなり発表したもので、理由は、かんぽ生命の不正販売問題をめぐって鈴木事務次官が日本郵政グループの鈴木康雄・日本郵政上級副社長に行政処分の情報を漏洩したことが明らかになったということだった。
「高市総務相がいきなり処分を発表したのは、総務省に、鈴木事務次官が情報漏洩していることを告発するタレコミがあったためです。しかも、そのタレコミには、漏洩の中身、つまり高市総務相と鈴木事務次官が大臣室で会話した処分人事の内容がそっくりそのまま載っていたらしい。告発の出どころは総務省内部ともいわれているが、いずれにしても、これに高市総務相が激怒し、『この話を放置しておいてマスコミに流されたら自分の首が危ない』と、先に発表して鈴木事務次官を切ったということのようです」(全国紙社会部記者)
ようするに自分の責任逃れのための火消し対応だったわけだが、しかし、これ、鈴木茂樹事務次官の更迭(実際は退職扱い)で済むような話なのか。鈴木茂樹事務次官のやったことは、明らかな国家公務員法の守秘義務違反ではないか。
しかも、この漏洩問題のバックには、官邸の影もちらついている。というのも、鈴木茂樹次官が情報を流していた相手が、あの鈴木康雄・日本郵政上級副社長だったからだ。鈴木康雄上級副社長は元総務次官で、日本郵政の長門正貢社長よりも「格上」と言われる“郵政のドン”。菅官房長長官の片腕として知られ、安倍官邸との繋がりが極めて深い。
鈴木康雄副社長は1973年に旧郵政省に入省後、放送政策課長など放送行政畑を歩み、2007年の第一次安倍政権で総務相だった菅義偉官房長官のもとで総務審議官を務めた。以降、菅官房長官からの信頼が厚く、日本郵政に送り込んだのも菅官房長官だといわれる。
「今回、鈴木次官は鈴木上級社長に行政処分の情報を漏洩したとして更迭にされましたが、いくら総務省の先輩とはいえ、一応は民間企業である日本郵政の副社長へリークするなんて官僚の独断ではできません。鈴木次官が官邸の意向を忖度したか、あるいは菅官房長官からサインが出ていた可能性はある。少なくとも、日常的に鈴木副社長は官邸側とやり取りをしていたはずです。かんぽ生命の不正問題はまさに郵政民営化の負の側面として、そのまま政権批判になって跳ね返ってきますから」(全国紙政治部記者)
実際、鈴木上級副社長は官邸と連携するかたちで、NHKに圧力をかけていた。例の『クローズアップ現代+』(NHK)のかんぽ問題追及報道の放送延期、謝罪と上田良一会長の退任問題だ。
この問題は9月に本サイトでも取り上げている(過去記事参照https://lite-ra.com/2019/09/post-4998.html)が、あらためて振り返っておこう。2018年4月24日、初めてかんぽ生命の不正営業の実態を報じた『クロ現+』は、放送後、続編の制作に向け、SNSで関係者に情報の提供を呼びかけていた。ところが、番組がTwitterに投稿した情報募集の動画2本に対して、日本郵政側が上田良一NHK会長に削除を申し入れるなど猛抗議。郵政側は「放送法で番組制作・編集の最終責任者は会長であることは明らかで、NHKでガバナンスが全く利いていないことの表れ」と主張し、同年8月2日に説明を求める文書を上田会長に送付したという。
結果として、番組はTwitterでの動画を削除し、8月上旬の放送を目指していた続報を一度はお蔵入りせざるをえなくなったのだが、郵政側の圧力は執拗だった。同年10月には「ガバナンス体制の検証」などを求める文書をNHK経営委員会に送りつけ、それを汲んだ経営委の石原進委員長が上田会長に「厳重注意」を行い、上田会長が日本郵政に謝罪文を送るという“全面屈服”の事態に発展したのだ。
このNHKへの圧力を直接的に指示していたのが、鈴木康雄上級副社長だ。上田会長からの謝罪文に対し、鈴木康雄上級副社長は再度、NHK経営委に文書を送りつけるのだが、その中には「かつて放送行政に携わり、協会のガバナンス強化を目的とする放送法改正案の作成責任者であった立場から、ひとりコンプライアンスのみならず、幹部・経営陣による番組の最終確認などの具体的事項も挙げながら、幅広いガバナンス体制の確立と強化が必要である旨も付言致しました」なる文言があった。これは、自分が放送に強い権限を持つ総務省の元事務次官だということを強調しながら、「放送法」と「ガバナンス体制」を盾にし、“いつでも潰せるぞ”と脅しているに等しい。
言うまでもなく、これは放送の自主独立を揺るがす報道圧力そのものだ。しかも、番組が誤報を流したのならば抗議もまだわかるが、『クロ現+』の報道は、日本郵政の長門社長が今年9月末の会見で「今となっては全くその通り」と不正を認め、抗議について「深く反省している」と謝罪しているように、紛れもない事実だったのだ。