今回ご紹介するのは、家政婦紹介所(有限会社)が相手方の事件である。
家政婦といえば、家庭における家事を補助・代行する職業に就かれている方のことで、ドラマの主人公になったりもしているようである。法律上の概念としては、「家事使用人」というものがあり、これに該当すると、労働基準法の適用がない(労働基準法116条2項)。この家事使用人であるが、家事一般に使用される労働者のことをいうが、「家政婦」=「家事使用人」という簡単な構図にはなっていないことには注意が必要である。例えば、メインの業務が家事でない場合や、家事を事業として請負う会社に雇われてその指示に従って家事を行うような場合は家事使用人には該当しない。
しかし、この規定が、無用に労基法の保護の外に置かれてしまう根拠として利用されてしまうのである。そのため、個人的には、この条文自体がブラックなのではないかと思ってしまう。
そして、ブラック企業は、この条文を楯に「家政婦」=「家事使用人」として、好き勝手働かせ、正当な対価を払わないのである。
ここでは、その一例をご紹介する。
原告であるOさんは、家政婦紹介所(被告/東京都内の有限会社)から介護付有料老人ホームの入居者についての介護・家事を担当する家政婦として送り込まれていた。
その契約内容が凄い。「勤務時間は24時間、日給11,700円」。ちなみに、刑罰をもって禁止している長時間労働の基準が、1日8時間である(労働基準法32条)。このような内容であるから、休みを取りたいときは、交代要員を家政婦紹介所に依頼し、交代者が入っている間だけ職場を離れることができるという過酷な労働環境である。
Oさんの退職にあたって、相談者の息子(元バンドマンで探偵というしっかり者!)が、この働き方はおかしいのでは?と思って色々動き回り、最終的に弁護士のところに相談に来られたのがきっかけである。
Oさんの働き方をうかがうと、形式的には家政婦紹介所からの紹介で、いわゆる一般的な「家政婦」として、有料職業紹介(職安法4条3項)の体裁で、老人ホームの入居者の居室で身の回りの世話をするというものだった。
しかし、仕事の内容は、掃除・洗濯・食事の用意といった日常家事は中心的な仕事ではなく、全体の仕事の中の一部でしかなかった。具体的には、ストーマー装具(人工こう門のことであり、消化管の疾患などにより、便を排泄するために腹部に造設された消化管排泄孔をストーマーといい、便を貯めるための袋を定期的に交換する必要がある。)交換、食事介助、入浴介助等が中心で、24時間介護の仕事に、居室の清掃等の家事が付加してついているといった程度であった。そして、当該介護に関しては、ケアマネージャーのケアプランに従って行い、介護保険を適用していた。
つまり、Oさんの仕事の内容は、老人ホーム入居者(特定の一人)の生活全般の「介助」「介護」であって、「家事」はごく一部に過ぎなかったのである。
しかも、家政婦紹介所での取り決めをみると、「法人の一員(職員)であることを忘れがちである。しかしあくまで組織の一員だ」などと戒めており、あくまでもOさんは家政婦紹介所の組織に所属しており、さらには、家政婦紹介所がOさんの「給料」を支払っていた。源泉徴収も行っている実態であった。
そうすると、Oさんは、家事使用人と見るべきではなく、家政婦紹介所に在籍する介護職員であって、グループホームに派遣されて稼動する労働者とみなければならないのである。
しかし、家政婦紹介所は、Oさんは家政婦であるとして、日当11,700円しか支払っていなかった。