以前から“女系天皇反対”の立場を公言してきた安倍首相(首相官邸HPより)
天皇の代替わりで、女性天皇・女性宮家の是非が注目を浴びている。菅義偉官官房長官は1日、「女性皇族の婚姻等による皇族の減少等は皇族方のご年齢から先延ばしにできない重要な課題であると認識している」と延べ、今秋以降に皇位継承の安定化についての検討を本格化させる意向を示した。
皇位継承権は皇室典範で“男系男子”に限ると定められている。しかし、戦後から男系男子の皇位継承者はみるみる減少。徳仁天皇が即位した今、皇位継承権を持つ皇族は、秋篠宮文仁親王とその長男の悠仁親王、明仁上皇の弟(天皇の叔父)である常陸宮正仁親王の3人だけ。若い世代に限れば現在12歳の悠仁親王ただひとりで、将来的に男児が生まれなければゼロになる。このままでは断絶するのは火を見るより明らかだろう。
他方、世論は女性天皇の誕生を歓迎している。各社世論調査を見ても、79%が女性天皇に「賛成」(共同通信)と「反対」を圧倒。女性宮家についても50%が「賛成」(「反対」37%、朝日新聞)などと前向きな数字が出ている。
いったい安倍首相はどうするつもりなのか。周知の通り、安倍首相は以前から“女系天皇反対”の立場を公言してきた。小泉政権下で「皇室典範に関する有識者会議」が設置され、女性宮家創設の議論が盛り上がったときも、当時官房長官だった安倍は「反対派」の急先鋒として小泉首相を押しとどめ、第一次安倍政権では女性宮家の議論を封印した。その後、民主党野田政権が女性宮家創設議論を復活させたが、安倍が政権に返り咲くとまたもや「白紙化」を宣言した。
そもそも、現皇室典範で継承権を認める“男系男子”とは、簡単に言うと“血縁をすべて父方で辿れば(男系の)天皇に行き着く皇族の男性”ということだ。安倍は下野時に〈皇室の伝統と断絶した「女系天皇」には、明確に反対である〉として、こう語っている。
〈(前略)女性宮家を認めることは、これまで百二十五代続いてきた皇位継承の伝統を根底から覆しかねないのである。
いうまでもないことだが、二千年以上にわたって連綿と続いてきた皇室の歴史は、世界に比類のないものである。そして皇位はすべて「男系」によって継承されてきた。その重みを認識するところからまず議論をスタートさせなければならない。
仮に女性宮家を認め、そこに生まれたお子様に皇位継承権を認めた場合、それは「女系」となり、これまでの天皇制の歴史とはまったく異質になってしまうのである。男児が生まれたとしても、それは天皇系の血筋ではなく、女性宮と結婚した男性の血統、ということになるからだ。〉(「文藝春秋」2012年2月号)
ようするに、初代・神武天皇の血統を受け継ぐのは男系の男子しかおらず、それこそが「万世一系の皇統」=「万邦無比たる神国日本の天皇」であるというのだ。そもそも神武天皇自体が架空の存在であるわけで、その万世一系という理屈自体、歴史学的に破綻しているとしか言いようがないのに、この時代錯誤はなんなのだろうか。
しかし、間違えてはいけないのは、この言い分は別に安倍首相のオリジナルというわけではない、ということだ。というよりも、日本会議系や極右文化人のコピペと言ったほうがいいだろう。たとえば、安倍首相の“ブレーン”のひとりと言われる八木秀次麗澤大学教授は〈私は安倍さんに男系継承について、レクチャーした経験もあり、安倍さんは私と同じ考えをお持ちであると思います〉としたうえで〈男系継承は、天皇陛下の権威の源です〉と宣言している(「文藝春秋」2013年3月号)。