日本政府は「日本産食品が科学的に安全」を立証しようとしていなかった
ようするに、菅官房長官や河野外相は明らかな事実があるにもかかわらず、「『日本産食品は科学的に安全であり、韓国の安全基準を十分クリアするものである』との一審の事実認定は維持されている」という自分たちの嘘発言を「自然な解釈」だと言い張り、朝日新聞を「日本産食品の安全性に疑念を抱かせかねない」などと攻撃したのだ。
まったく度し難い嘘つきぶりだが、しかし、連中がもっと悪質なのは、「日本の農産物の安全性アピール」や「韓国への対抗」というような目的だけで、このフェイクを流したわけではないことだ。
菅官房長官、河野外相、外務省、農水省がわざわざ「科学的な安全が認められた」と強弁したのは、自分たちの政策ミスを糊塗するためだった可能性が非常に高い。
じつはこのWTOへの提訴で、そもそも日本政府は「科学的に安全」であることを立証しようとしていなかったのだ。
日本は韓国の輸入規制に対し、WTOのSPS協定(衛生植物検疫措置の適用に関する協定)における「科学的な原則に基づいてとること」(SPS協定第2条2)では争わず、「恣意的又は不当な差別の禁止」(SPS協定第2条3)や「必要以上に貿易制限的でないことを確保する義務」(同協定第5条6)などの違反にあたるとして提訴しているのだ。
一審の判決文に「日本産食品は科学的に安全」という記述がないのは当たり前で、日本政府のほうが「科学的に安全」を立証することから逃げていたのだ。
そして、この「科学的な安全」の立証の放棄が、上級審で日本の逆転敗訴を許した大きな原因になった。実際、上級審の判決文を読んでも、その科学的な安全の立証の不十分さが指摘されているし、朝日新聞も同日の記事で、この問題を指摘していた。
WTOに詳しい中川淳司・中央学院大学教授は「日本が2条の2違反を主張しなかったのは、立証が難しいと考えたからだろう」と推測。「日本が「王道」の議論を避けた時点で、この裁判は勝ち目が無かったと思う」と述べている。
ようするに、「科学的に安全を立証」することを放棄した結果、逆転敗訴を招いたことを隠すために、官邸、外務省、農水省が一体になって「一審では『日本産食品は科学的に安全』と認められた」などと事実を“捏造”して国民に説明したのである。