“自衛隊幹部から直接聞いた”を“秘書官からのまた聞き”に修正した安倍
実際、安倍首相の今回の説明には、自身がこれまで吹聴してきたエピソードと、明らかに食い違っている部分がある。「これが違うというのであれば証拠を出せ」という安倍首相のリクエストに応じて、検証してみよう。
そもそも、安倍首相がこの「自衛官が息子に『お父さんは違憲なの?』と目に涙を浮かべながら言われた」なる逸話を改憲の理由に持ち出し始めたのは2017年からだ。調べたところ、記録として確認できるのは、同年6月24日、神戸市のポートピアホテルで行われた「神戸『正論』懇話会」の設立記念特別講演会での講演。安倍首相はこのなかで、憲法改正に関して「中学や高校の教科書の多くが、自衛隊について憲法違反という見解があることを記載しています」としたうえで、こう続けていた。
「自衛隊の幹部から、こういう話を聞いたことがあります。その幹部には息子さんがいらっしゃいますが、パイロットのお父さんが大好きで、いつも元気な息子さんだそうであります。その息子さんが数年前、中学校に入った直後、夕食のとき、その日に限ってふさぎこんだ様子で押し黙っていたそうであります。心配になったお父さんが問いただすと、一言、『お父さん、憲法違反なの?』と言って目に涙をためていたそうであります。『合憲だ』と政府見解を説明してもですね、『だって学校でそういう考えがあることを習ったんだよ』と言っていたと言います。果たして皆さん、このままでいいんでしょうか」(産経WEST「安倍晋三首相 神戸正論講演詳報(7)」より)
また、同年10月5日に生出演した『プライムニュース』(BSフジ)でも、安倍首相は憲法改正の必要性として同じく、「ある自衛官から聞いた話なんですが、お子さんから『お父さん違憲なの?』と言われたんですね。非常にショックだったんですね。この状況を変えていく責任が私たちにはあるんだろうと思っています」と語っていた。その後も安倍首相は「自衛官から聞いた」として同じ話を何度も繰り返した(たとえば2018年11月27日衆院予算委員会での答弁など)。
こうやって振り返ればわかるように、これまでは安倍首相自身が“直接”自衛官から聞いた話として語っていたわけである。ところが、事実かどうか問われた今回の答弁では、なぜか「秘書官から聞いた」、つまり“また聞き”だったとすり替えているのだ。
共産党の井上哲士院議員によると、今回は防衛省も口裏を合わせ〈総理は、H29年春頃に防衛省担当の総理秘書官を通じて、航空自衛隊の現役幹部が話していたことを聞いた〉と回答したという(井上議員の19日Twitterより)。