セクハラ被害告発を金儲け・売名行為と揶揄
たとえば、被害者女性は週刊誌にパワハラ・セクハラを告発するのだが、そこに乗り込んだ氷見は編集者とこんなやりとりをするのだ。
編集者「セクハラ、パワハラは被害者がそう感じたらそうなんです。彼女は契約を切られた際に被害者意識を持ったってことでしょうね」
氷見「“被害者”って言葉は強いですからね」
編集者「その武器があれば大抵大丈夫です。部数稼ぐためにちょっとアレンジしてあげればオッケー」
まるでセクハラ告発を商売にしているようなやりとりだが、それだけでない。ドラマでは、ほかにも「いまだったら彼女は世の中を変えるヒロイン」などと、セクハラ被害者を揶揄するようなセリフが盛んに飛び出す。
そして被害女性が顔出ししたことで、過去の写真などが暴かれると、弁護士事務所でそれを見たスタッフたちが「ネットのみなさんが探し出してくれました」「ちょっとあざと過ぎましたよね」と、実名告発に対してあたかも売名行為のように批判し、嘲るのだ。
さらにドラマは、被害者女性が加害者の谷と交際していたのではないかと疑い、被害者にそれを詰問するという信じがたいストーリー展開になる。マツエクサロンにいた被害者女性に、水川あさみ演じる弁護士・与田知恵が「付き合ってたんですか、谷さんと。フラれた腹いせで、セクハラを訴える人もいますからね」と詰め寄るのだ。すると被害者女性はそれを認めた上で、「別れ話をしたら部署を移動させられたことは立派なセクハラ」だと主張。この被害女性の主張は当然のものだが、しかし与田はマツエク中の被害者を見て吹き出し、「その顔で言われてもね。フフフフ」と小馬鹿にして笑う。
クラクラする展開だが、さらに最終解決方法として氷見は加害者男性の谷と被害者女性を同席させ、こんな会話をする。
氷見「お二人はお付き合いされてたんですか? 優秀なクリエイターが若い彼女に捨てられてその未練から嫌がらせをした。そんな恥ずかしいことは人には言えませんよね? でも、谷さん、交際していたことを認めればあなたの状況はこれ以上悪くはならないと思いますが」
いやいや、交際していたからといってパワハラやセクハラが免責されるなんてありえないし、そもそも加害者側の弁護士が、被害者と加害者を同席させることじたい、被害者を萎縮させる信じがたいもの。しかも氷見は2人の付き合っていた頃の思い出話をさせ、その挙句、谷と被害者女性にこんな口論をさせる。
谷「お前に 俺の苦労がわかんのかよ!」
被害者「苦労なんかしてたっけ?」
谷「したっつうんだよ!」
(略)
谷「お前だって地位と名誉が欲しくて必死になって近づいてきたんだろうが」
被害者「踏み台にもならなかったけどね」
(略)
被害者「別れたいって言ったら私を異動させて。そのくせ夜中に仕事だって呼び出して正座させて、罵倒して。歯向かったらクビにするって脅して!」
谷「こっちは会社にも切られて暴露本まで出すとか言われて。それに比べたらお前のほうがましだろ!」
加害者男性は明らかに上司と部下という支配関係を背景に女性を脅したり不当に異動させたりしているにもかかわらず、過去の交際を持ち出し、セクハラ・パワハラをまるで単なる痴情のもつれかのように矮小化する。あまりにもふざけた展開だが、さらに氷見はこう畳み掛けるのだ。
「いい加減にしてください。そもそも これは周りを巻き込まなくてもお二人が話し合えば解決できる問題じゃないんですか?」
「セクハラがあったことは事実です。でも それを利用して人を貶め、まわりを振り回す必要までありますか? 冷静に考えてください。谷さんとの素敵な思い出もあるんじゃないですか?」
クラクラするような不見識なセリフの数々。パワハラ・セクハラは、過去の恋愛関係や素敵な思い出で軽減されるものではないし、恋愛関係の破綻を恨み、自分の地位を利用して女性を不当に異動させるというパワハラは、2人で話し合って解決する個人的な問題などではまったくない。そのような大きな不利益を被った女性がそれを訴えるのは正当な行為だ。にもかかわらず、それを「セクハラを利用して人を貶め」などと非難するのは、まるで財務省セクハラ問題のときの麻生太郎財務相ではないか。にわかには信じがたいかもしれないが、ドラマではこうした氷見の言動を批判的に描いているのではなく、ヒーローとして描いているのだ。
そしてドラマは、告発本の出版中止という最大のミッションを氷見が成し遂げて、大団円を迎えるのだが、その経緯も酷い。2人が恋人関係にあったことを知った氷見が、そのネタを週刊誌にリークし掲載させたことで、発売直前だった告発本『ブラックダイアリー』は出版中止に追い込まれるのだ。
何度でも言うが、たとえ加害者と被害者が恋愛関係にあっても、パワハラやセクハラが許されたり矮小化されるものではない。しかしドラマでは恋人関係がことさら強調され、しかもそれが被害者側の“落ち度”のように描かれている。まるで性被害に対して声をあげたことじたいが間違いだったかのように。
実際、現実社会でも、セクハラやパワハラを告発した女性に対し、「売名行為」「女性が誘った」「女性にも落ち度があった」などと卑劣なバッシングが起こり、性被害を矮小化しようとする動きが起こっているが、ドラマ『スキャンダル専門弁護士 QUEEN』は、こうした風潮を正当化し、差別を煽り、さらに勇気を持って告発しようとする被害者を萎縮させ、告発を封じようとしているとしか思えないものだ。