「能天気」こそが岡留安則の強み! 自分が殴られているシーンまで情報公開
岡留を「新宿ノーテンキゲリラ」と命名したのは「朝日ジャーナル」にいた宮本貢だった。そんな絶妙の間合いを、彼がいつ、どこで身につけたのか、じっくり聞きたかったが、永遠に聞けなくなった。
この時、私はこんな発言もしている。
「右翼の問題でも、『噂の真相』はすぐに謝っちゃう。そして沈静化してから同じようなことを書く(笑)。そういう能天気さが強みでもあるよね。そこが『金曜日』との違いでもあるけど、そういう精神は『金曜日』にはない」
椎名、筑紫、私と「週刊金曜日」の当時の編集委員が3人も参加しての座談会だったが、貴重なスタンスだろう。
「リクルート事件の少し前、三菱重工の転換社債“事件”があったが、これをキチンと取り上げたのは『噂の真相』だけだった。リクルート事件よりこちらの方が大きな問題なのに、三菱という大企業に遠慮して、どこも書けない。だから『噂の真相』は企業広報が必死になって読んでいる雑誌なんです。でも最近は安心してる傾向があるよ(笑)。もっと企業が血眼になって読む雑誌にした方がいい」
これが「噂の真相」、すなわち岡留への提言だった。
しかし、2歳下でほぼ同年代の彼がどう年を取っていくかは私にとっても他人事ではなかったのである。
「噂の真相」こと「噂真」については岡留の『「噂の真相」25年戦記』(集英社新書)や『編集長を出せ!』(SB新書)をはじめ、デスクの神林広恵の『噂の女』(幻冬舎アウトロー文庫)や途中入社して大ホームランをかっとばした西岡研介の『「噂の眞相」トップ屋稼業』(河出文庫)などがある。西岡本は東京高検検事長、則定衛の女性スキャンダルを暴いて、この国のパワーエリートを震撼させた記者のドキュメントである。
「噂真」が右翼に襲われ、岡留と副編集長の川端幹人がケガをした際の情景描写も迫力がある。渋々、事情聴取を受けるべく四谷署に行った岡留は、トイレと言って出て来て編集部に電話をかけ、“防犯用”ビデオが撮っていたテープをウェブで流せ、と指示する。
「もちろん、四谷署には内緒だよ。証拠として押収されたら元も子もないから」
これには西岡も「大したオヤジ」だと兜を脱いでいる。自分が殴られているシーンまで情報公開したわけだからである。
岡留は私にとってまさに戦友だった。彼を弔うには、これからも権力と闘いつづけるしかないだろう。
(了)
(佐高信)
最終更新:2019.02.04 02:28