安倍首相はなぜ偽装した賃金データを喧伝しなかったのか
しかし、ここで大きな疑問として立ち上がってくるのは、こうやって数字やデータをもち出してはこじつけや印象操作の「アベノミクスの成果」を猛アピールする安倍首相が、本人も言うように、2018年の異常な賃金伸び率を「成果」として強調してこなかったことだ。
たとえば、公的年金積立金の2018年10~12月期の資産運用成績が14.8兆円の大損失になったことを本日、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が公表したが、安倍首相は過去にGPIF が5.3兆円もの損失を出した際には「年金積立金の運用は中長期的な観点から評価すべき」と主張していたにもかかわらず、その後、四半期という「短期的」な段階で黒字になると、すぐさまそのことをアピール。国会でも、誰にも質問されていないのに「GPIFの運用がプラス6兆円!」などと大はしゃぎしていた(2018年2月5日衆院予算委員会)。
このように、安倍首相は少しでも手柄が誇れる数字が出れば、それを必死になって自分のアピールに使ってきた。にもかかわらず、昨年8月、同年6月分の「毎月勤労統計調査」で名目賃金が前年比3.6%増(確報値は3.3%増)となり、マスコミが「賃金伸び 21年5カ月ぶりの高水準」「アベノミクスの成果」と大々的に報じたときも、またそのあとも、この数字をもち出してひけらかすことはなかった。賃金伸び率の上昇というもっとも食いつきそうな数字、しかも「21年5カ月ぶりの高水準」という実績を誇るにはバツグンのキャッチコピーがついた数字なのに、である。
つまり、安倍首相にはどうしても、昨年の「毎月勤労統計」の結果をもち出して「アベノミクスの成果」とひけらかせない事情があった。そう考えるべきだろう。
ここで重要になってくるのが、昨年1月から「毎月勤労統計」の作成手法が変更されていたことと、その変更を安倍首相が議長を務める会議で麻生太郎財務相が指示していた、ということだ。
そもそも今回の「毎月勤労統計」不正調査問題は、2004年から2017年までは東京都分で従業員500人以上の事業所において全数調査ではなく約3分の1しか調査しないという不正をつづけ、それにより平均給与額が実際より低く算出されてきた、というもの。しかし、なぜか2018年1月からは東京都分を約3倍にして全数調査に近づけるデータ補正を開始し、その上、あきらかに賃金が“上振れ”するように統計の作成手法を変更していた。
そして、この統計作成手法の変更は、2015年10月16日におこなわれた、安倍首相が議長を務める「経済財政諮問会議」において、麻生財務相が「毎月勤労統計については、企業サンプルの入替え時には変動があるということもよく指摘をされている」「ぜひ具体的な改善方策を早急に検討していただきたいとお願いを申し上げる」と言及。つまり、“下振れする変動をどうにかしろ”と指示していたのだ。