人権無視の山下法相(自由民主党公式HPより)
安倍政権による「データ捏造」がまたも発覚した。今国会で安倍政権が成立させようとしている出入国管理法改定案だが、与党は委員長職権で開催を強行した衆院法務委員会で実質審議入りを目論んでいたが、その直前に、技能実習生から聞き取りをおこなった聴取票の集計に「ミス」があったと法務省が発表したのだ。
本日配信の記事でも説明したが、これまで安倍首相と山下貴司法相は揃って、聴取票の調査結果について「個人のプライバシー保護の観点から開示は困難」「開示には応じられない」と拒絶。しかし、政府は法案を成立させることで来年4月から外国人労働者の受け入れを拡大した場合、業種によってはそのほとんどを技能実習生からの移行を想定しており、最低でもこの聴取票の中身を公表されないかぎりは法案審議などできない。そのため、野党が開示を要求しつづけ、きょう「聴取票の回答の集計」を出すことを約束していたのだ。
だが、なんときょうになって法務省がこの聴取票に「計上ミスがあった」と言い出した。
まず、大前提の数字から間違っていた。調査をおこなった人数は「2892人」だとされていたが、正しくは「2870人」だったと訂正。
さらに、問題となっていた「失踪動機」についても訂正した。山下法相は「おもな失踪動機」を質問された際、「より高い賃金を求めて失踪する者が約87%」と答弁。法務省も国会提出資料のなかで、「失踪動機」を「より高い賃金を求めて:2514人(86.9%)」とし、「失踪の原因」をこのようにまとめていた。
〈技能実習を出稼ぎ労働の機会と捉え、より高い賃金を求めて失踪する者が多数〉
〈技能実習生に対する人権侵害行為等、受入れ側の不適切な取扱いによるものも少数存在〉
だが、実際の聴取票は、失踪動機について尋ねる質問事項では、賃金については「低賃金」「低賃金(契約賃金以下)」「低賃金(最低賃金以下)」という3つの選択肢(複数回答可)しかなく、「より高い賃金を求めて」なる選択肢は存在しない。ようするに、勝手に3つの選択肢を「より高い賃金を求めて」という実態とはまったく違う言葉を「捏造」して発表していたのである。
しかも、だ。きょう政府が発表するとした聴取票の回答の集計では、正しくは「低賃金」が67.2%(1929人)で、賃金についての3つの選択肢のいずれかにチェックした人の合計数だと訂正。そのうち「低賃金(契約賃金以下)」が5.0%(144人)、「低賃金(最低賃金以下)」が0.8%(22人)だった。
つまり、技能実習生の失踪動機は、「より高い賃金を求めて」ではなく、「低賃金」だったからが約70%だったのだ。
法務省は、〈本来、いずれも『低賃金』を理由とするものの、そもそも聴取票のこのような項目設定が必ずしも適切でなかった〉〈担当者の理解不足により、先にお出しした原提出資料の集計時においては、各項目の集計結果を単純に合算してしまって人数を計上してしまっていた〉ことが計上ミスの理由だとしている。
さらに驚くべきことに、法務省はこの計上ミスが、今年5月に入国管理局内供覧用の報告書を作成した時点ですでに発生していたと説明。それを、法案を法務委員会で審議入りさせようとする直前にミスだったと訂正してきたのだ。
一体、こんな体たらくで法案の審議をしろというほうがどうかしている。だいたい、法務省も聴取票の設問自体が適切ではないと認めたということは、失踪した技能実習生の労働の実態はこれでは掴みきれない、と認めたようなもの。法案を審議する前に、失踪者にかぎらず技能実習生全体に対象を広げて、しっかり調査しなければ話にならない。審議などもってのほかだ。
しかし、問題は、法務省の「ミス」以前に、聴取票の回答の集計結果が、技能実習生たちが失踪した原因が法務省の説明とはまったく違ったことだ。