東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会公式サイトより
先日本サイトでお伝えしたように(https://lite-ra.com/2018/07/post-4142.html)、2020年東京オリンピック大会期間中の酷暑問題が懸念されているなか、信じがたい動きが浮上した。
文科省とスポーツ庁が全国の大学と高等専門学校に対して、学生を東京五輪のボランティアに参加させるため、五輪・パラリンピック期間中は授業や試験をやらないよう通知を出したというのだ。
東京オリンピックは7月24日から8月9日にかけて行われ、パラリンピックは8月25日から9月6日まで行われる予定。ところが、文科省は、すべての大学、高専に、授業や試験がこの大会期間と重ならないよう、対応を促したのだ。通知を受けた大学側も、首都大学東京や国士舘大学、明治大学など、大会期間中を休みにすることを決定した大学や検討し始めた大学が出てきている。
なぜ、たかだかいちスポーツイベントのために、教育機関の授業を犠牲にしなければならないのか。これではほとんど戦時中の「学徒動員」「国家総動員」ではないか。
これはけっしてオーバーな話ではない。そもそも、東京オリンピック・パラリンピックのボランティアは、完全にボランティアのレベルを超えた、ブラック労働としか言いようのない代物なのだ。
東京オリンピックに際して募集されるボランティアは、大会の運営に直接関係する大会ボランティアと、交通案内や観光案内などを行う都市ボランティアの二つに大別される。前者は8万人、後者は3万人、合計11万人のボランティアが必要だと試算されている。これは、2012年ロンドン大会における7万人を上回る数字で、過去最大のものだという。
3月28日に、東京都と2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が大会におけるボランティア募集要項案を発表したが、とくに大会ボランティアのほうがひどい条件だった。
まず運営側は、02年4月1日より前に生まれた人、合計10日以上活動でき、指定するすべての研修に参加できることを大会ボランティアの応募条件としている。
10日プラス研修という拘束時間だけでも無償の域を超えているが、他の条件がこれまたひどい。1日の仕事時間は8時間もあり、1日1回を原則とする飲食は支給されるが、交通手段や宿泊場所は各自が手配し、費用も自己負担となっている。ようするに、寝泊まりの場所は勝手に考えて、勝手に現地に来いというのである。この条件を発表した直後、大炎上したため、6月になって、組織委は慌てて1000円程度の交通費を認める方針を出した。しかし、こんな少額では都内近郊の人でないと足りないし、日当や宿泊費などは依然出ないままだ。
しかも、驚かされるのは、仕事の内容だ。組織委員会は「積極的に応募していただきたい方」として、競技の基本的知識がある人、英語やその他言語のスキルを生かしたい人、スポーツボランティア経験をはじめとするボランティア経験がある人といった厳しい条件をあげているが、それもそのはず。仕事の内容を確認すると、タダ働きとは思えないほど知識や技能が必要な仕事が含まれているのだ。
たとえば、空港や会場での海外要人の接遇、関係者が会場間を移動する際の車の運転、選手がメディアからインタビューを受ける際の外国語でのコミュニケーションの補助、ドーピング検査のサポート、大会を記録するための写真や動画の編集サポートといったものまで。これは、タダ働き人員で補うレベルの仕事ではなく、プロの通訳やドライバーを雇って割り振るべき仕事だろう。
ようするに、この悪条件でボランティアがなかなか集まらない懸念が広がる中、文科省は今回、大学と高専に「学徒動員」まがいの通知を出したというわけだ。