『万引き家族』が描いたのは格差が広がる日本の現実だ
その文化的教養のなさには呆れ果てるが、加えて腹立たしいのは、連中が明らかに映画を見ずにこんないちゃもんをつけていることだ。『万引き家族』の柴田家は怠惰だから、祖母・初枝(樹木希林)の年金を当てにしたり、年金だけでは足りない不足分を万引きで補うような生活になっているわけではない。
実際、父・治(リリー・フランキー)は日雇い派遣に、母・信代(安藤サクラ)はクリーニングの仕事をしており、きちんと働いている。ただ、不安定な雇用を余儀なくされているので、なにか不測の事態が起こると、真っ逆さまに貧困へ転落してしまうのだ。
たとえば、治は仕事中にケガをしても労災が出ないし、ケガで仕事を休まざるを得ない間の給与の保証もないため困り果てる描写が出てくるし、また、信代も、働いている会社の経営が傾くと、真っ先にリストラの対象とされてしまうくだりがある。
高須氏は〈万引き家族で日本人のイメージを作られるのは嫌です〉と述べていたが、『万引き家族』で描かれている家庭は、言うまでもなく、いまの日本の現実である。
事実、是枝監督は現実の日本社会の投影として『万引き家族』の家庭をつくっている。前出・中央日報のインタビューで是枝監督はこのように話している。
「日本は経済不況で階層間の両極化が進んだ。政府は貧困層を助ける代わりに失敗者として烙印を押し、貧困を個人の責任として処理している。映画の中の家族がその代表的な例だ」
是枝監督が『万引き家族』の企画を思いついたのも、現実に日本の社会で起きていたことに触発されたからだ。前出・中央日報のインタビューで是枝監督は、「数年前に、日本では亡くなった親の年金を受け取るために死亡届を出さない詐欺事件が社会的に大きな怒りを買った。はるかに深刻な犯罪も多いのに、人々はなぜこのような軽犯罪にそこまで怒ったのか、深く考えることになった」と、『万引き家族』のインスピレーション源を語っているが、そういう意味で、『万引き家族』には、是枝監督がいま日本社会に対して感じている違和感、問題意識が凝縮されているとも言える。
格差の激化、共同体や家族の崩壊、機能しないセーフティネットによる貧困層の増大、疎外される貧困層や弱者、自己責任論による弱者バッシングの高まり。そういったものが、一人一人の人間に、家族になにをもたらしているのか。『万引き家族』は、その問いを観客に突きつける映画だ。