ケン・ローチ監督『わたしは、ダニエル・ブレイク』も英国でバッシング
にもかかわらず、「変なイメージを外国に植え付けるな」「万引きのやり方を教えるなんて犯罪教唆だ」「『万引き家族』のカンヌ受賞は恥さらし」という頭の悪すぎるバッシング。実はこうした状況について、ミニシアター系映画館・渋谷アップリンクなどを運営するアップリンク代表の浅井隆氏が、こんな興味深いツイートをしていた。
〈『万引き家族』パルムドール受賞おめでとう。日本人ということで様々なところでおめでとうと言われる。ロンドン在住の友人曰く「日本では反日映画とネトウヨに言われているみたいだね、ケン・ローチが受賞したときのイギリスも同じで嘘の話をでっち上げて恥さらしと、右側が騒いでいた」と〉
これは、2年前のカンヌ国際映画祭でケン・ローチ監督作品『わたしは、ダニエル・ブレイク』がパルムドールを受賞したときに英国で巻き起こったバッシングのことだ。
『わたしは、ダニエル・ブレイク』は、心臓に疾患を抱えているため、長年続けてきた大工の仕事を辞めるように医者から言われているダニエル・ブレイ
クという中年男が主人公。仕事をすることができない以上、福祉の助けが必要なのだが、そのタイミングで行政からは「就労可能」であるとして打ち切られてしまう。しかし、健康上の理由で働きたくても働けないため、事情を説明してなんとか支援を回復してもらえるよう行政にかけあうものの、役所は典型的なお役所対応に終始して答えを徹底的に先延ばし。結果的に、ダニエルは悲劇的な運命をたどることになってしまう──。
これは、保守党政権下でなされた福祉政策見直しの結果、現実に起きていたことを物語にしたものだ。仕事をすることができないのにも関わらず「就労可能」であるとして支援を打ち切られて苦しむダニエル・ブレイクのような人がたくさん生まれていた。そのような状況が用意された背景は日本と同じ。「弱者切り捨て」にひた走る政府と、福祉のおかげでなんとか生きていくことができる人々に対し「貧乏なのはお前のせい。国に頼るな」と自己責任論で叩く社会が生み出した状況である。
新自由主義政策が押し進められていった結果、貧困層に起きている過酷な現実を描く映画、という点で、『万引き家族』と『わたしは、ダニエル・ブレイク』は、共通したテーマを扱った映画といえる。しかし、日本と英国、貧困層の間で現実に起きている似たような苦しみに着想を得てつくられた二本の映画が、それぞれの国で同じようなバッシングを受けているとは……。浅薄でグロテスクなネトウヨ思想の跋扈が日本だけの問題ではないことを再認識して、改めて暗澹とした気分に襲われるが、しかし、一方では希望もある。
それは、自分たちが生きている国や社会の負の部分を真正面から逃げずに見つめたふたつの作品が、世界で高い評価を受け、パルムドールという世界最高峰の賞を受賞したという事実だ。このことは、映画界の知性がまだ死んではいないことを示している。
ケン・ローチ監督は、『わたしは、ダニエル・ブレイク』日本公開時のオフィシャルインタビューのなかで、「日本にも同じ状況が見られるかもしれません。もしそうであれば、私たちは変化を求めるべきです。でも今しばらくは、ケイティ、ダニエルやその他の登場人物たちと知り合いになってください」(ウェブサイト「Real Sound映画部」より)と語っていた。
また、是枝監督は先に引いたカンヌ交際映画祭でのスピーチで「対立している人と人、隔てられている世界を映画が繋ぐ力を持つのではないかと希望を感じます」と語った。
現実を見つめ、手を差し伸べること──。二人のパルムドール受賞監督は、映画を通じて観客にそのようなメッセージを送っている。その思いが多くの人たちに届くことを切に願う。
(編集部)
最終更新:2018.06.06 05:11