集合写真の位置、ペンキの塗り方……不合理すぎる解雇理由に裁判所は
どうやら、学校法人は、Bさんが、いきなり職場のことを褒めたことが気に食わなかったらしい。もしかしたら、もっと時間をかけて学校法人のことをよく知ってから、褒めてほしかったのかもしれない。残念ながら、裁判でそんなツンデレな一面を見せられても、ドキッとする人はいない。私としてはTPOをわきまえてほしかった。なお、学校法人は、この言動がどうして解雇理由になるのかは明らかにしなかった。やはり、急に褒められて恥ずかしかったのかもしれない。
学校法人の勢いはとどまるところを知らない。こんなことも解雇理由として挙げてきたのである。
『Bさんは、小学校の入学式の際、事務職なのに、学校長・学園長と同列に並んで、集合写真の撮影をした』
学校法人は、この写真撮影の件が、幼稚園の教職員として適格性のない行為であり、幼稚園の秩序を乱し、規律に違反する行為であり解雇理由にあたると主張していた。入学式といえば、学校行事の一大イベントである。仮に、写真撮影などの場面で、看過し難い問題が発生していたとするならば、その時点で処分をして然るべきであろうが、私は、学校法人から当時の集合写真が証拠として提出されるのを心待ちにしていた。しかし、ついに提出されることはなかった。非常に心残りである。
学校法人からのさらなるダメ押しを受けて、私は悶絶した。とどめがきたのである。
『Bさんが学校の正門のペンキを厚く塗りすぎたせいで、門の開閉がし辛くなった』
「それはいくら何でも」と思ったが、学校法人側はどうやら本気で主張しているようだった。ちなみにBさんが、正門にペンキを塗ったことはあるが、門の開閉に支障が生じるようになったことはなかった。
裁判所は、学校法人側が主張する2人の解雇理由には見向きもしなかった。裁判所からは、解雇無効を前提とする和解を勧告され、学校法人側が復職を拒んだため、金銭和解をすることとなった。およそ不合理な解雇理由に固執し、争いをいたずらに長引かせた結果、学校法人側は、相当額の解決金を2人に支払うこととなった。乱暴な解雇をしたばかりか、解雇を正当化しようとして、かえって傷口を広げてしまう典型例であった。
【関連条文】
解雇→労働契約法16条
解雇理由の証明書→労働基準法22条
(大久保修一/旬報法律事務所http://junpo.org)
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ブラック企業被害対策弁護団
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長時間労働、残業代不払い、パワハラなど違法行為で、労働者を苦しめるブラック企業。ブラック企業被害対策弁護団(通称ブラ弁)は、こうしたブラック企業による被害者を救済し、ブラック企業により働く者が遣い潰されることのない社会を目指し、ブラック企業の被害調査、対応策の研究、問題提起、被害者の法的権利実現に取り組んでいる。
この連載は、ブラック企業被害対策弁護団に所属する全国の弁護士が交代で執筆します。
最終更新:2018.07.04 12:41