2017年4月、東京で行われた三上智恵監督とのトークイベントでの高畑勲監督(撮影=編集部)
財務省の福田事務次官によるセクハラ事件は、この国の権力の座に座っている男たちの下劣さを暴露しただけでなく、メディアで働く女性たちが受けている抑圧もあらためて浮き彫りにしたといえるだろう。取材をすれば、おぞましい性的な口説きや行為を受け、そのセクハラを告発すれば、“ハニートラップ”“セクハラが嫌なら、女に取材をさせるな”などと理不尽な攻撃を受ける。女性がいくら必死で仕事をしても、真っ当なことを主張しても、結局、性的な存在としか扱われない。性別に関係なく自由に能力が発揮できるように受け取られているメディアの世界だが、実際はきわめて根深い女性差別の意識に支配されている。
この事件からそういった問題を考え始めたときに、思い出したのが4月5日に亡くなった高畑勲監督の遺作『かぐや姫の物語』のことだった。
『かぐや姫の物語』は昔話の「竹取物語」をベースにしながら、実験的なアニメーションの手法を駆使し、現代の社会にも通じる普遍的なジェンダーの問題を描いていることから、非常に高い評価を受けている作品だが、2人の女性アナウンサーがこの作品をまるで自分の物語のように受け止め、心に突き刺さったと告白しているのだ。
たとえば、そのひとりがTBSの宇垣美里アナウンサーだ。ライムスター宇多丸がパーソナリティーを務めるTBSラジオの新番組『アフター6ジャンクション』が4月17日放送で高畑監督の追悼特集を放送していたのだが、そのなかで宇垣アナは、自身の心に残る高畑監督作品として『かぐや姫の物語』を挙げ、こう語った。
「日本最古の物語といわれている『竹取物語』が、こんなに現代を生きる女の人の話だったとはってことが非常に刺さって。なんでこのことを、オジさんの高畑監督が知ってるんだろうってことが、私も本当に不思議で。たとえば、『コレしちゃダメ、アレしちゃダメ』って教育係の人に言われるなかで、『高貴な姫は人ではないので』っていう言葉に、『あぁ、女って人ではないんだ』って思う瞬間がたくさんあったりとか。『女性はこういうふうにしなさい。こんな言葉使いはダメ。足を広げてはダメ』(と言われて)『好きにさせてくれ!』みたいな。人目を気にしなきゃいけないっていう部分が『そうだなぁ』って思ったりとか」
「見たこともない人たちに、『きっとブスだろう』『化物みたいかもしれない』『いや、すごく美人らしいぞ』。なんで見たこともない人にそんなことを言われなきゃいけないんだろうって。もう本当に見覚えがありすぎて、私そこで涙が止まらなくて。そこでかぐや姫が疾走するんですよね。あのシーンの、あの絵のエネルギーに圧倒されるし、その気持ちがものすごくわかるし」