自衛隊を“私兵”として扱い始めた安倍首相、それに呼応する自衛隊
見ての通り、電話口での「国民の敵との暴言を受けた」という小西氏の発言が、なぜか、三佐の供述からはすっぽりと抜け落ちている。繰り返すが、そこにいたる小西氏の他の発言については、こと細やかに供述しているにもかかわらずである。
なお、防衛省は今回の調査のなかで小西氏に事情を一切聴いていないという。また、小西議員によれば、同省の調査担当者は豊田次官と武田人事教育局長に文書による報告を求めただけで、直接のヒアリングをせず、さらに〈「本日の調査報告書の発表の段階でも、両者による正式の文書報告が調査担当者に提出されていない」とのこと〉(小西氏のブログより)だという。
まるで「お前は国民の敵だ」発言の存在を否定するため、その後に出てくる小西氏の「国民の敵だと暴言を受けた」という発言を“聞き取れなかったことにした”としか思えないではないか。これでは「あったことをなかったことにする組織ぐるみの隠蔽ではないか」(小西氏)との疑いが生じて当然だろう。
しかし、この幹部自衛官の“記憶力”の都合のよさ以上に、唖然とさせられたのは、なんと言っても小西氏を罵倒した“動機”にある。三佐はこう供述している。
〈私はもともと、小西議員に対しては、総合的に政府・自衛隊が進めようとしている方向とは違う方向での対応が多いという全体的なイメージで小西議員をとらえていました。小西議員から会釈された際、私はあいさつを返すのもどうかと思ったし、最初に見たとき、一言思いを述べたいという気持ちが高まりました。そして、交差点で一緒になり、会釈された際に、私は小西議員へのイメージもある中、あいさつを返したくない気持ちもあり、無視をするのもどうかと思って、思わず「国のために働け」と聞こえるように、大きい声で言ってしまいました〉
つまり、「政府・自衛隊が進めようとしている方向とは違う」という理由で小西議員に暴言をはいたといっているのだ。これは、この幹部自衛官が「政府」に反するとみなした者は、自国民であっても攻撃すべし、という思想をもっていることの証明だろう。そこには自衛隊が「国民を守るための組織」だという自覚は微塵もなく、むしろ「政府=安倍政権のための実力部隊」といわんばかりの姿勢が伝わってくる。
しかも、こうした“安倍政権への忠誠”は、ほかでもない自衛隊の最高指揮官である安倍首相が求めてきたものだ。安倍首相は3年前、国会で自衛隊を「我が軍」と呼んだ。さらに、昨年3月の防衛大学校卒業式の訓示では、これから自衛官に任官しようという学生たちに向けてこう述べた。
「警戒監視や情報収集に当たる部隊は、私の目であり耳であります」
「つまり、最前線の現場にあって指揮をとる諸君と、最高指揮官である私との意思疎通の円滑さ、紐帯の強さが、我が国の安全に直結する。日本の国益につながっています」
「そして将来、諸君の中から最高指揮官たる内閣総理大臣の片腕となって、その重要な意思決定を支える人材が出てきてくれる日を楽しみにしています」
まるで自衛隊が安倍首相の“私兵”であるかのような言い草だが、今回の自衛官の行動をみると、こうした安倍首相の自衛隊への姿勢に呼応したものとしか思えないのだ。