“追い出し部屋”のアウトソーシング!巧妙化する悪質リストラ手法
Aさんは、このような経過をたどって、仕方なく、出向先である「ジョブクリエーションコーポレーション」(仮名)に行くことになった。
出向先では、毎朝簡単なミーティングをし、あとはひたすら会社から提供されたパソコンで大手の転職サイトを検索し、求人情報を調べて応募をするという作業の繰り返しである。なにしろ与えられた業務内容が「自分の転職先を探すこと」であるのだから、ほかにやることはない。出向先では、転職を支援するためのキャリアカウンセリング的なことも行われているが、とにかく、目的は一日も早い転職の実現(=元の会社からの退職)である。
昔からリストラ、退職勧奨といえば、労働者を窓際に追いやり、草むしりや新聞記事のスクラップなどをやらせて嫌になって退職させるという手法がしばしば行われていたが、そのような露骨な嫌がらせは違法であることから企業側としてもリスクを冒してあえてこのような手段をとることは少なくなってきているように思われる。
そこで、最近は、さらに手口が巧妙化、悪質化し、異動先における業務を「自らの転職活動を行うこと」と指示することにより、当該人事異動を認めさせた時点で、当該労働者を退職に向けた不可逆的なレールに乗せて、結果として、退職に追い込むという方法が現れるようになった。
その一例が、いわゆる「追い出し部屋」と呼ばれる配転、出向を利用した退職強要であり、近時、裁判例においても配転命令、出向命令を無効とする判決が登場している(ベネッセコーポレーション事件東京地裁立川支部平成24年8月29日判決、リコー(子会社出向)事件東京地裁平成25年11月12日判決、労働判例1085号19頁参照)
Aさんのケースで問題となった出向を利用した退職勧奨は、いわば「追い出し部屋」のアウトソーシングともいうべき制度であり、問題点は「追い出し部屋」と同様である。
この出向を利用した退職勧奨の巧妙性、悪質性は、その制度そのものにある。すなわち、このような人事異動(出向)による退職強要の根幹は、異動(出向)先における業務が「自らの転職活動」という点にある。したがって、ひとたび出向命令に応じてしまえば、労働者に残されている行動の選択肢は、退職しかない。「転職」といっても、当該企業を退職することに他ならないからである。
労働者の本心は、定年までの雇用の継続を望むのが通常であり、とりわけ昨今の雇用情勢に照らせばなおのこと中途で転職をするという選択は経済的にも不合理であり、このような選択を通常の精神状態で自らの意思で行うことは考えがたい。