不可解な米山バッシングの背景に、原発再稼働をめぐる東電の思惑か
しかも今回の『バイキング』の取り上げ方には、もうひとつ不可解な点がある。前述のとおり、松井府知事が米山県知事を提訴したのは昨年末で、そのことが広く知れ渡ったのは年明け1月のこと。つまり、それから1カ月以上も開いているし、裁判の新たな動きを伝えるわけでもなく、言ってしまえば、テレビが常に求めているニュースとしての新鮮さもない。
にもかかわらず、いったいなぜ2月も後半の今頃になって、“松井VS米山のバトル”を取り上げたのか。
そこでひとつ思い出されるのは、MC坂上と松井府知事との関係だ。坂上は昨年『ダウンタウンなう』(フジテレビ)で松井府知事と共演。松井府知事のたいしておもしろくもない過去のやんちゃ話や恐妻家エピソードを大喜びで聞き続け、ヨイショしまくっていた。まさか松井府知事に頼まれでもしたのだろうか。
しかし、そんなことよりもっと可能性の高いものがある。局上層部あるいは東電の意を受けて、番組ぐるみで原発再稼働をめぐって米山県知事へのバッシングを仕掛けた可能性だ。
周知のとおり、米山氏が知事をつとめる新潟県には東京電力柏崎刈羽原発があるが、昨年10月、原子力規制委員会が東電の示す安全対策が新基準に「適合」しているとして審査に合格。再稼働に向け本格的に動き始めている。
しかし、脱原発の方針を掲げて当選した米山県知事は、この再稼働の動きに一貫して否定的な立場を崩していない。福島原発事故の原因究明や、柏崎刈羽原発で事故が起きた場合の住民避難や健康影響に関する独自の検証委員会をつくり検証を進めており、昨年末にも「県独自の検証がなされない限り、再稼働の議論は始められない」と従来の方針を明言。先月25日にも「検証を待たずに再稼働をすれば、差し止め訴訟をすることになる」とまで語った。再稼働には地元の同意が必要なため、再稼働を進めたい安倍政権と東電、原子力ムラにとっては、米山県知事の存在が邪魔なのだ。
そのため、米山県知事に対するバッシング報道を仕掛けたのではないか。うがちすぎと思うかもしれないが、同じ新潟県でやはり当時脱原発を掲げていた泉田裕彦前知事もバッシング報道を仕掛けられたことがあった。
さらに、福島原発後鳴りをひそめていた東電のメディア対策もここに来て完全に復活。最近は、再稼働に向けて“ご説明”と称してメディア各社に出向くなど、情報操作に動きまわっている。
実際、米山県知事に対しても、2月22日発売の「週刊新潮」(週刊新潮)が、「大雪で使えない太陽光に血税を流した戦犯は誰か」として、バッシング記事を掲載。米山県知事が再稼働に同意しないことについて、「次の知事選を睨んでのことであるなら、個人の選挙のために首都圏を巨大なリスクにさらす姿勢は万死に値する」などと批判している。
また先月中旬、大雪で新潟県内の電車が立ち往生した際も、産経新聞が自衛隊の要請も検討しなかったなどとして、米山県知事を厳しく批判していた。
今回の『バイキング』の不可解な“松井VS米山のバトル”企画も、こうした再稼働をめぐる動きを睨んだ米山バッシングのためのものだったのではないか。
フジテレビということを考えると上層部の意を受けた企画だった可能性は十分ありえる。脱原発そのものをテーマにするとどう転ぶかわからないが、“松井VS米山バトル”なら坂上や東国原が松井府知事の肩をもつことは目に見えているおり、米山県知事=目立ちたがりのおかしな人と印象づけられる。そういうことだったのではないか。
しかしいずれにせよ、そうしたポチ犬みたいな番組のあり方は、報道や言論の自滅を導くだけだ。討論形式で人気を博しているという『バイキング』だが、あらためてそのおかしさに視聴者は気がつくべきだろう。
(編集部)
最終更新:2018.02.24 09:04