北村滋内閣情報官の特高警察を称賛する危険思想もドラマで再現?
まさにドラマ中の有馬そのものだが、さらに類似点があった。北村氏は数年前に「外事警察史素描」という論文を発表しているのだが、そこで戦前・戦中の特高警察、弾圧体制を生んだ法体系を高く評価している。
〈我が国が近代国家として誕生してから、外事警察は、国家主権といわば不即不離の形で発展を遂げてきた。本稿は、戦前・戦後を通じた外事警察の組織としての歴史的歩み、任務及び権限、現在直面する課題を素描することにより、いささかなりとも外事警察の全体的な理解に資そうとするものである。〉
〈昭和一二年七月に支那事変が勃発するや、我が国は、次第に本格的に戦争に介入せざるを得なくなり、近代船に対応する国内体制整備に迫られた。戦時における外事警察は、適正外国人の抑留と保護警戒、俘虜及び外国人労働者の警戒取締りは勿論のこと、敵性国による諜報、謀略、宣伝の諸活動に対抗する防諜機関として国策遂行上極めて重要な任務を担うことになった。〉
このように論文全体において北村氏は、戦前戦中の警察を礼賛し、大衆運動や思想の取り締まりを渇望しているのだが、それはドラマ中の有馬審議官も同様だった。水谷豊演じる杉下右京に、その諜報活動が多くの人々を追い詰めた責任を問われ、有馬はこう言い放っている。
「大局に立って国を守る上でもっとも重要な武器はミサイルではない。情報だと考えている。テロや国家間の争いにおいてはもちろん、国内に潜む不穏分子をあぶり出すには、綿密に張り巡らされた情報網が不可欠です。その点我が国の情報収集能力は脆弱と言わざるを得ない。危機感を持つ人間が結集し、すみやかに制度を強化する必要があるんです。国民一人一人が国防の目となり耳となる。不穏分子を見つけ出し、ただちに通報するよう義務づける」
これに対し右京は「そして誰を調査するかはあなたがお決めになる。そうやって恐喝の材料を集め、あなたの意に沿わない者を次々排除したわけですか」と反論するが、有馬はさらにこう続けている。
「確かに我々は政府要人を調査することもあります。国家の中枢に大勢を脅かすような思想の持ち主がいては困りますからね。しかしやましいことがなければ調べられても何の問題もないはずです」
「国家間の争いや不穏分子の活動においては、ルールは存在しないのです。(略)瑣末なルールに囚われた結果、国への脅威を増大させることになれば、大罪というべきではありませんか」
どうだろう。まさに要人や市民への監視、弾圧に対する有馬の言動は、北村氏、そして北村氏が仕える安倍政権そのものではないか。このように現実の情報当局、警察の暗部を見事にえぐった『相棒スペシャル』だったが、脚本を担当した太田愛氏は、これまでにも共謀罪、特定秘密保護法、警察内部の抗争、公安の暗躍などの現実の警察が抱える問題を作品に投影することで定評のある脚本家でもある。
安倍政権の過剰な言論統制が、ジャーナリズムだけでなくお笑いやドラマ、映画、音楽などの表現世界にまで蔓延し浸透している今、果敢にも現実を風刺しその暗部をえぐる今回のような作品は、表現の自由にとっても非常に貴重だ。
(伊勢崎馨)
最終更新:2018.01.06 09:30