慎太郎絶賛もバンカー転落事件にも一切突っ込まなかったビートたけし
例のトランプ来日時の“バンカー転落事件”に話題が及んだときもそうだった。念のため解説しておくと、バンカー事件とは、トランプとのゴルフ中にバンカーに入れてしまった安倍首相が、バンカーショットでもミス、トランプは「早く出せよ」と言いたげに安倍首相を一顧だにせず、スタスタと先へ。焦った安倍首相は急いでバンカーの縁に足をかけるが、バランスを崩し、後方に一回転、自らがバンカーに落っこちてしまう。ところが、トランプは安倍首相の転倒を気遣うどころか、完全に無視して歩いて先に行ってしまったのだ。この映像、エピソードはとくに海外メディアでさんざん紹介され、茶化された。
ところが、安倍首相は番組のなかで、このバンカー事件を自ら持ち出して「私もいいショットをしたんですが、いいショットは流さないんですよ! 流さない!」と八つ当たり的にメディアを批判。さらに、こんな自慢話まで延々と展開していった。
「(トランプ大統領の)お相手をしなきゃいけないという気持ちでちょっと焦ったんですね、(傾斜の)高いほうから出ようとしたらですね、若い時の気持ちでグッと足を踏ん張ったら踏ん張りきれずに後ろにグルッと転がっちゃったんですね。クルンと! クルンと後ろに転がったんですが、そのままスックと立ったんです! で、何事もなかったように出ていったんですね」
「でね、APECの首脳会合に言ったらね、首脳が言うんですよ。『安倍さん、身体やわらかいな』。それでトランプ大統領がね、みんなの前で言うんですよ。『安倍っていうのは素晴らしいゴルファーだけど、体操選手としても一流だよ。この柔軟性は』というからね、私はだから『外交は柔軟性ですよ』(と言ったんですね)」
トランプから無残なおいてけぼりをくらったことはネグって、逆に武勇伝のように語る安倍首相のいつもながらのオレ様トークには辟易するしかないが、しかし、こういうゲストの失敗談というのは、本職の芸人にとっては最高にオイシい“いじりネタ”だろう。このときも、「日本がピンチでもアメリカは手を貸してくれないってね、おいらはそう思ったよ」とか「安倍さん、日米安保、大丈夫か、とか思わなかったの」とかなんとでも言える場面だった。
しかし、たけしはそんなツッコミどころか、トランプが安倍を無視して、先に行ってしまったことすらも触れなかったのだ。爆笑して「なるほど!」「いい返し!」「イイネ!」と絶賛する劇団ひとりら出演者とともに、たけしも、ただただ笑顔で安倍首相の演説を聞いているだけ。
とにかく、この日の番組はずっとこんな調子だった。安倍首相のほうが「おれって面白トークができるだろ」と芸人気取りで大して面白くもない話を延々と自慢げに語り、それをレギュラー出演者がなんのつっこみもせずにただただ笑い「おもしろい」と絶賛し続ける。その様子はまさに、大企業の勘違い社長を必死で接待する取引先の中小企業社長と社員たちの姿そのものだった。
総選挙直前、安倍首相の盟友・幻冬舎の見城徹社長が自らのネット番組「徹の部屋」(AbemaTV)に安倍首相をゲスト出演させ、ヨイショを連発したことに対して、たけしの弟子である水道橋博士が〈これくらい「飲み屋でやれ!」と思う映像も珍しい〉と突っ込んだことがあったが、この日のやりとりもまさに「飲み屋でやれ」と言いたくなる接待ショーだったというべきだろう。