『徹底検証「森友・加計事件」――朝日新聞による戦後最大級の報道犯罪』(飛鳥新社)
朝日新聞社が21日、『徹底検証「森友・加計事件」――朝日新聞による戦後最大級の報道犯罪』という書籍の内容をめぐり、版元の飛鳥新社と著者の小川榮太郎氏に対して厳重に抗議するとともに、謝罪や訂正を求める申入書を送付したと発表した。公表した申入書にはこう書かれている。
〈小川榮太郎著・株式会社飛鳥新社発行の書籍「徹底検証『森友・加計事件』 朝日新聞による戦後最大級の報道犯罪」(本書という)は、弊社による「森友学園」「加計学園」に関する一連の報道を「戦後最大級の報道犯罪」「虚報」「捏造」などと決めつけています。
(中略)
それを弊社に一切の取材もないまま、根拠もなく、「虚報」「捏造」などと決めつけるのは、弊社の名誉・信用を著しく傷付ける不法行為であり、到底見過ごすことはできません。
貴殿及び貴社に厳重に抗議するとともに、すみやかに弊社に謝罪し、事実に反する部分を訂正し、弊社が被った損害を賠償するよう強く求めます。〉
周知のように、『徹底検証「森友・加計事件」』の著者の小川榮太郎氏はもともと、自民下野時は安倍を再び総理にするための草の根運動をしていて、そうしたことから右派文化人らによる「安倍晋三総理大臣を求める民間人有志の会」の事務局的な役割を担い、そして2012年秋の自民党総裁選直前に『約束の日 安倍晋三試論』(幻冬舎)という安倍PR本でデビューした人物。その後も「放送法遵守を求める視聴者の会」なる団体を立ち上げて、政権批判報道に圧力をかけるなど、露骨な安倍政権アシスト活動を行ってきた。
そんな“安倍タイコモチ”の代表のような人物が先の総選挙投票日直前の10月18日、これまた安倍政権べったりの極右雑誌「月刊Hanada」の発行元・飛鳥新社から“森友・加計報道の検証本”と称して出版したのが、この『徹底検証「森友・加計事件」』だった。
そして、同書は発売されるや否やAmazonランキングを駆け上がり、11月28日現在、8万部以上を発行しているベストセラーとなった。
しかし、その中身はやはりというべきか、“安倍首相の完全な潔白”を主張し、疑惑を追及する報道を徹底的に「偏向」と批判するもの。しかも、同書は森友問題や加計問題でスクープを連発していた朝日新聞を標的に、〈「冤罪事件」を計画し、実行した「主犯」〉〈「安倍叩き」のみを目的として、疑惑を「創作」した〉とまで書いている。つまり、森友・加計問題は朝日新聞によるでっちあげだと断じているのである。
これに対して、朝日新聞が前述のような申入書を送ったわけだが、驚いたのは、朝日の姿勢がこれまでになく強硬なことだ。読売新聞が自社批判に対して片っ端から訴訟を乱発しているのと対照的に、朝日新聞はこれまで、多くの批判・攻撃を浴びながらも抗議のポーズを見せるだけで、実際に裁判を起こすことはほとんどなかった。
こうした態度は業界内でしばしば「へっぴり腰」「言うだけ番長」とからかわれてきたが、しかし、その朝日が今回の申入書では「事実に反し名誉・信用を毀損する主な箇所」として具体的に16項目を挙げるなど、飛鳥新社や小川氏の対応いかんでは、名誉毀損訴訟に踏み切る空気を漂わせているのだ。
本サイトは日頃から、政治家や公党、大企業などが、メディアや言論機関に対して名誉毀損等の訴訟を起こすことを強く批判してきた。それは、いまの名誉毀損訴訟の制度が権力や資金をもっている者に圧倒的に有利になっており、訴訟が正当な報道の自由、知る権利を抑圧する結果しか招いていないからだ。新聞社や出版社などはなおさらで、仮にも言論機関が自らへの批判を訴訟で恫喝することはそれこそ「報道の自由の自殺行為」に等しいと考えている。
しかし、今回は別だ。朝日新聞にはぜひ、抗議のポーズだけでなく、実際に訴訟を起こし、『徹底検証「森友・加計事件」』を法廷の場にひきずり出してもらいたい。