選挙期間中に打たれた異例の中吊り広告、そして自民党の大量購入
こうした記述をみるだけでも、同書が「安倍首相擁護」「森友・加計疑惑隠し」という政治目的ありきで書かれた本であることは疑いようがないが、問題はそれだけではない。同書は実際に、安倍政権によって大いに政治利用されているのだ。
そのひとつが先の総選挙で安倍自民党の宣伝に寄与していたという事実だ。同書の奥付にある発行年月日は2017年10月22日、解散総選挙の投開票日だが、実際の発売日は18日で、都内では16日ごろから書店の店頭に並べられていた。
しかも、その選挙戦最終盤だった18日ごろには、東京と大阪の電車に同書の中吊り広告を掲載。選挙運動が禁止されている投開票日も、少なくとも毎日新聞と日本経済新聞の朝刊に広告が打たれ、「安倍総理は『白さも白し富士の白雪』だ!!」「このままでは国の存立が危うくなる!」「朝日新聞による戦後最大級の報道犯罪」「“スクープ”はこうしてねつ造された」などの文言が踊った。このタイミングははたして偶然なのだろうか。
しかも、ここにきて自民党がこの“安倍擁護・反転攻勢本”を大量に購入し、所属議員や支部などに書面付きで送っていたことが明らかになった。
「フライデー」(講談社)12月8日号が、その書面の画像とともに報じている。記事では、自民党ベテラン秘書が「党が全部で5000部以上購入したそうです」などとコメント。書面には、〈同書では、安倍総理への「森友・加計疑惑」が、一部マスコミによる国を巻き込んでの「冤罪事件」であった全貌を、事実の積み重ねにより分かりやすく実証しております〉との紹介に続き、このように書かれている。
〈つきましては、ぜひご一読いただき、「森友・加計問題」が安倍総理と無関係であることの普及、安倍総理への疑惑払拭にご尽力賜りますようお願い申し上げます〉
ようするに、同書を使って議員、各支部に“森友・加計学園問題は冤罪”“朝日新聞の報道犯罪だ”とアビールせよという号令をかけたということらしいのだ。しかも「フライデー」の記事によれば、安倍首相と距離を置き、加計問題への対応についても批判している石破茂元幹事長の事務所と代表を務める鳥取県連には、同書は届けられていなかったという。
こうした経緯を知ると、ますます同書の出版自体が安倍官邸、自民党と、それこそ小川氏の表現を借りれば「共謀」した結果なのではないかと思えてくる。
そういえば、2012 年の自民党総裁選前に出版された小川氏のデビュー作『約束の日』はベストセラー化で安倍首相再登板の一翼を担ったといわれているが、安倍首相の資金管理団体・晋和会と代表を務める選挙区支部が、政治資金で少なくとも4000部以上も購入していたことが判明している。
そして今回、自民党は『徹底検証「森友・加計事件」』を定価1500円で5000部購入していたとすれば、単純計算で750万円もの金が一気に版元の飛鳥新社に転がり込んできたことになる。割引があったとしても数百万円にはなったはずだ。
一方、それに先立つ選挙期間中には、前述したように同書の中吊り広告や新聞広告が大々的に打たれた。雑誌ならまだしも、中堅出版社が単行本の広告で中吊り広告を打つことはめったにない。交通広告を手がける会社が公開している料金表によれば、2、3日の短期でもJR山手線なら約180万円、東京メトロ全線ならば約250万円かかる。その上、新聞広告となれば、合計で少なくとも数百万円の金が必要なはずだ。
ひょっとして、自民党の大量購入と異例の選挙期間中の広告展開はなにか関係があるのではないか。そんな疑念も頭をもたげてくるのだ。