JASRACが独占禁止法違反の判決を受けた経緯
こういったJASRACの状況に異議申し立てをし、独占禁止法違反の判決を引き出した著作権管理事業会社のイーライセンス(事業統合により現在はネクストーンに改称)の三野明洋取締役会長による著書『やらまいか魂 デジタル時代の著作権20年戦争』(文藝春秋)には、ラジオ局の内部でこんな文書がまわっていたと綴られている。
〈たとえば、J-WAVEが番組担当者あてに配布した「イーライセンス社 放送使用楽曲の管理業務開始のお知らせ」には、わざわざ丁寧に【選曲時のお願い】として、「前述のとおり、別途報告・支払いなど煩雑な作業が発生します。 *やむをえない場合を除いて、当面は極力使用を避けるよう、お願いします」と付け加えてあった。
(中略)
さらに、FM NACK5という埼玉の放送局にいたっては、〈楽曲オンエアの制限について〉として、大塚愛、倖田來未、Every Little Thingなど具体的にイーライセンスが管理するアーティスト名と作品名の60曲リストを添付し、「オンエアを当分見合わせることに致します」としたのは決定的だった。後日、裁判では大きく問題視された〉
12年に、JASRACと音楽業界のあり方に疑問を抱いた作曲家の穂口雄右氏が、自身で作詞と作曲と編曲を手がけたキャンディーズの「春一番」、「夏が来た!」をJASRACの管理下から外し、自身で管理することを発表。これにより一部のカラオケ会社で配信が停止になる騒動があったが、これも「包括契約」の制度ゆえに起こったことである。
これまで列挙してきたように、JASRACという組織のやり方に問題があることは明白なのだが、それによって多くの人が抱えた不満の火に油を注いだのは、JASRAC役員の対応に他ならない。
今年7月には、JASRACの浅石道夫理事長が朝日新聞デジタルのインタビューを受けているのだが(7月20日付)、ここで彼は音楽教室の徴収に反対する人々の声をこう評している。
「予想の範囲内。音楽教室の生徒さんたちが反対するのは当然あるだろうなと。一般の人の反対には、反対のための反対、『JASRACは気に入らないから、この機会にたたいてやろう』というのもあるのだと思う」
反対している人たちは、著作権料徴収によって引き起こされるであろう今後の音楽教育に与えるダメージについて議論しているのだが、これは話のすり替え以外なにものでもない。
また、浅石理事長は、京大入学式の式辞の件に関し「グレーな事案であり、徴収するとなれば訴訟になる可能性がある。経営判断として、そこまでしないと決めた。その決断が遅かったというのなら意見としては承る。しかし反省なんかしていない」とした後、さらにこのように語るのであった。
「(揶揄して)『カスラック』という人たちは議論の相手だと思っていない。まっとうな議論をしている人には真摯に対応する」