自民党改憲案にも家族条項! 松尾の危惧は現実になるのか
LGBTの問題にせよ、子どもの有無に関する問題にせよ、権力の側にいる人間が多様性を排除しようとことさらに動く理由は松尾の言う通り、それが〈彼らの既得権益を守るから〉であろう。
しかし、言うまでもなく、そういった排他的な社会をつくることは、確実に少数派の人々へ災厄をもたらし、彼らを幸福から遠ざけていく。
自らの既得権益のために、そういった社会をつくることを目論む人々を松尾は〈野蛮〉と糾弾し、怒りをぶちまける。
〈ある人にとって当たり前のことが、別の人間には当たり前ではない、ということを想像できない、「だって、当たり前だから」という考え方。僕は、野蛮な行為だと思う。
(中略)
押し付けないでほしい。
とにかく僕は、願うのだ。
東京の片隅で、無宗教で、子供を持たないことを選択し、ただひっそりと死んでいこうと決めた夫婦だって、世にはたくさんいるのだ。そこに、良識を押し付けるのは暴力なのだ〉
性の問題にせよ、家族の問題にせよ、保守的な思想を振りかざす人々は多様性を忌避し、他人の家庭に土足で踏み込んでまで、自分たちの「当たり前」を強要する。
その象徴的な存在ともいえるのが、日本会議の意向を強く反映した自民党の改憲草案にある「家族は互いに助け合わなければいけない」という、いわゆる家族条項だろう。一見もっともらしいことを言っているようにも見えるこの条項は、その蓋を開けてみれば、家父長制の復活を目論むかのような旧来的な家族像や性役割を押しつけるものであり、個人の価値観や多様性など一顧だにせずマイノリティを排斥しようとするものでもある。
今後、いよいよ自民党が改憲を押し進め、その手始めにはこういった当たり障りのないように見える部分から手をつけてくるといわれている。しかし、それは私たちが住む社会を息苦しいものに変えてしまう。
ここ最近の松尾スズキのエッセイといえば、加齢を原因とした疲労や体調不良への愚痴が定番だが、こういったマイノリティ排斥に抵抗するメッセージもより積極的に発信してほしいと願う次第である。
(新田 樹)
最終更新:2017.10.30 12:37