講談社はルワンダの「千の丘ラジオ」のようにならないでほしい
しかし、この講談社の女性社員がいうように、その本の「読者の心」に何が残るのかといえば、結局のところ、中国人や韓国人への差別感情に他ならない。ネット右翼的な言辞を活字に刷りなおして、差別を商売にしているのだ。それは多様性を重んじ、文化を広めるという出版の理念に反しているばかりか、差別主義に基づく犯罪、ヘイトクライムを助長する行為でしかない。講談社の社員女性はこう記している。
〈見えないかもしれませんが、日本国内の少数民族は、はっきりと生命の危機にあります。ヘイトクライムとして報道されないだけで、ヘイトクライムはすでに蔓延しています。都知事ですらも過去の虐殺を否定し、韓国由来の銀行が放火され、毎週のように差別デモが行われている今の日本社会で、講談社がルワンダの「千の丘ラジオ」になるようなことは、絶対にやめてください。我々はそのような事態を起こさないために、文化を作っているはずです。私はそう信じていますし、講談社はそうあるべきだと期待しています。〉
1994年のルワンダ大虐殺では、多数派のフツ族系の民放ラジオ局「千の丘」が、少数派のツチ族への民族憎悪を扇動するキャンペーンを行なった。「隣のツチ族に気をつけろ」「奴らはゴキブリだ」「カマやナタを用意しろ」。こうした民族差別の言辞をメディアを通じて広めることによって、それまでフツ族たちのすぐ隣で生活してきたツチ族たちが大勢殺された。ジェノサイド全体の犠牲者数は50万人とも100万人とも言われている。
ルワンダ虐殺から20年以上が経った日本では、排外主義団体が「良い朝鮮人も悪い朝鮮人もどちらも殺せ」「ゴキブリたちを潰せ」などと路上でがなりたて、ネットでも日々ヘイトスピーチが溢れかえっている。そして「売れるから」という理由で乱造されるヘイト本の数々。ケント氏の本もまた、「日本人とは別物」「禽獣以下」などという差別のアジテーションとともに売り出され、書店に並び、すでに45万部以上が刷られてしまった。それは、差別を煽るナショナリズムを駆動させている安倍政権や、朝鮮人虐殺の犠牲者への追悼を取りやめた小池百合子都知事など政治とも確かに連動しながら、出版文化を“ヘイトスピーチの拡声器”へと変質させてしまうものだ。
その意味でも、今回紹介したように、書店員や講談社内部からもケント氏のヘイト本に対する強い批判、拒絶感を表す意見がでていることは、少ないながらも“希望”と言えよう。