「Tシャツを貸したから」「事件後メールが来たから」と否定する山口氏に詩織さんは明確に反論
他にも手記では、詩織さんを貶める主張が多数展開されている。
たとえば山口氏は〈もしあなたが朝の段階で私にレイプされたと思っていたのならば絶対にしないはずの行動〉として、貸した自分のTシャツを詩織さんがその場で着用したことあげ、〈レイプの被害に遭ったと思っている女性が、まさにレイプされた翌朝、レイプ犯のTシャツを地肌に進んで身につけるようなことがあるのでしょうか?〉〈結局、私はそのTシャツを未だに返してもらっていません。そのTシャツの存在を認めると、自分の主張の辻褄が合わなくなるからですか?〉と、鬼の首を取ったようにあげつらう。
だが、実際には、詩織さんは「Tシャツの存在」を認めていないどころか、『Black Box』のなかでしっかり触れているのだ。一刻も早く部屋の外に出なければならないと思っていた詩織さんは、ブラウスを見つけるが〈びしょ濡れ〉であり、〈なぜ濡れているのか聞くと、山口氏は「これをきて」とTシャツを差し出した〉。そして〈他に着るものがなく、反射的にそれを身につけた〉。つまり仕方なく差し出されたTシャツを着たわけだが、さらに詩織さんは都内に借りていた部屋に戻ると、〈真っ先に服を脱いで、山口氏に借りたTシャツはゴミ箱へ叩き込んだ〉と書いている。
まだある。山口氏は事件後の15年4月6日夜、詩織さんから〈山口さん、/お疲れ様です。/無事ワシントンへ戻られましたでしょうか?/VISAのことについてどのような対応を検討していただいているのか案を教えていただけると幸いです。〉(注:/は改行)という文面のメールが送られてきたことを〈物証〉として、〈これが、被害者がレイプ犯に送る文面でしょうか?〉〈このメールはあえて伏せている。それはなぜですか? 都合が悪いと思っているからですか?〉と書き立てている。
しかしだ。これも実際には、このメールを送った事実も文面も、詩織さんは『Black Box』で明記している。そして、理由についても〈忘れたい気持ちがあり、これはすべて悪い夢なのだと思いたかった。まだ体の痛む箇所もあり、混乱する頭も麻痺しているようだった。私さえ普通に振る舞い、忘れてしまえば、すべてはそのまま元通りになるかもしれない。苦しさと向き合い戦うより、その方がいいのだ。と、どこかで思ったのだろう〉と、隠すことなく正直に書いている。加えれば、詩織さんは警察への相談と同時に山口氏とのメールのやりとりを続けたが、これは山口氏に非を認めさせるための友人たちの勧めであったことなど、詳しく説明しているのだ。