TBSテレビ『NEWS23』取材班・編『綾瀬はるか 「戦争」を聞く』(岩波書店)
先日、本サイトでは、8月13日に放送されたNHKスペシャル『731部隊の真実~エリート医学者と人体実験~』について紹介したが、もうひとつ、TBSでも日本の加害責任に言及した特集が組まれた。15日放送の『NEWS23』が、日本軍が中国でおこなった毒ガス戦を取り上げたのだ。
特集タイトルは、「綾瀬はるか「戦争」を聞く~地図から消された秘密の島~」。「綾瀬はるか「戦争」を聞く」は2010年からつづいているシリーズで、広島県出身で、自身の祖母も被曝し、原爆で大伯母を亡くしたという被曝3世の綾瀬が戦争の証言者を訪ねるという趣旨のもの。そして今年は、戦時中、毒ガスの製造所があった島・広島県大久野島で、毒ガスの製造にたずさわったという男性・藤本安馬さんの証言を紹介した。
藤本さんは現在91歳だが、15歳のときに「お金をもらいながら勉強ができる」と聞き、「東京第二陸軍造兵廠忠海製造所」に入所。しかし、これがじつは毒ガスの製造所だった。毒ガスの使用は国際条約で禁止されていたため、島の存在は地図からも消され、藤本さんも島でのことを口外しないという誓約書を書かされたという。
この毒ガス製造所で藤本さんがつくっていたのは、「死の露」とも呼ばれるびらん性の猛毒・ルイサイト。しかし、その製造過程は杜撰なもので、製造中に毒ガスを吸ったり、猛毒を製造していることを知らずに動員された女学生が漏れ出した原料に触れるなどしたという。結果、この島で毒ガス製造にかかわり亡くなった人の数は3700人以上にものぼる。
だが、藤本さんは製造にかかわった当時の意識を、こう語る。
「中国侵略戦争に勝利するために毒ガスを造るわけですから、たいへん名誉なことである、英雄である、という気持ちで毒ガスを造りました」
特攻隊をはじめとして、戦時中、日本軍は自国の人命をとことん軽視するばかりか、「お国のために」命を捧げることを美化してきたことは周知の通り。そして、藤本さんはいまなお、毒ガス製造にたずさわったことによる健康被害と闘う、戦争の被害者だ。
しかし、被害者である藤本さんが口にするのは、「加害者」としての責任だ。
「事実を曲げることはできません。毒ガスをつくった、中国人を殺した事実は曲げることはできません。(それが)英雄であったということを曲げることもできません。それは事実であります」