想田和弘が実体験を通じて感じた大手メディアの政権忖度体質
先の大戦の反省から生まれた日本国憲法が、いま、こんなとんでもないものに書き換えられようとしている。ただ、その一方で、国民の間で憲法についての論議が進んでいるとは言い難い。有権者全体で見れば、現在公開されている自民党の改憲草案の中身を知っている人のほうが圧倒的少数派だろう。
そのような状況になっている原因は間違いなくメディアの報道姿勢にある。映画監督の想田和弘は、昨年の参議院選挙のとき、投票に初めて参加する18歳の若者からの質問に応える新聞企画に参加した。その際、自分が投票先を決める基準について「僕の場合、悪法に賛成した人や政党には入れません。個人の人権や多様性、憲法を大切にしない人や政党にも入れません」と答えたのだが、それに対し、新聞社の担当編集者から「憲法については記載しないか、言い方を変えてもらえないか」と言われたという。自民党は必死に選挙戦の争点から隠そうとしていたが、憲法改正が選挙におけるテーマのひとつなのは間違いなく、それを指摘したことで「選挙期間中に若者を誘導している」と揚げ足をとられる可能性がある、というのが担当編集の主張だった。これに対し、想田和弘はこのように書いている。
〈同社は伝統的には権力の監視を担ってきた、リベラルな新聞社である。僕はびっくりして、メールで次のように反論した。
「憲法について削除することには同意できません。議員には憲法遵守の義務が課せられています。すべての議員や政党は憲法を大切にしなければならないのです。したがって「誘導」だという批判は的外れですし、また、もしそれが「誘導」だとしても、それの何がいけないのでしょうか。選挙期間中だからこそ、報道機関は自由に政策や政治について語るべきでしょう。とくに安倍政権の憲法を踏みにじるような政策や行動が問題になっている以上、それについて掘り下げた報道をすべきではないでしょうか。自主規制やバランス主義はメディアにとっては自殺行為だと僕は思います。御社まで大手テレビ局みたいになってしまっては、日本は終わりです」〉
結局は、「皆さんも自分の価値観に照らし合わせて投票先を吟味してほしいと思います」との文言を付け加えることで「憲法」の二字を残すことができたのだが、想田和弘はこの一連の騒動で受けた所感をこのように書き記している。