安倍政権の画策する改憲プロセスや強権的な国会運営に疑義を呈する室井佑月と小林節。
都議選の歴史的大敗、内閣支持率の低下にもかかわらず、予定通り秋の臨時国会に自民党の憲法改正案を提出する、と明言した安倍首相。独裁と政治の私物化を「反省」するどころか、逆に憲法改正を使って、自分の疑惑を隠し、政権延命をはかろうとしているらしい。
となると、黙ってないのが、われらが室井佑月だ。都議選前から「安倍政権が弱ってるとかいって油断しちゃだめだよ、次は絶対、改憲を仕掛けてくるから」と警戒。憲法学者・小林節氏との対談を提案してきた。
小林氏は改憲論者でもともとは自民党のブレーン的な存在でもあったが、ここ数年、安倍政権の解釈改憲や改憲の動きを徹底批判している。
「安倍さんの姑息な改憲扇動に対抗できる方法を小林先生に教わりたい」という室井と、「立憲主義をわかっていない安倍政権下での改憲は絶対に許しちゃいけない」というのが持論の小林氏の対談。前編は、安倍首相が打ち出した憲法9条への自衛隊明文化から、加計学園問題、共謀罪にまで話が及び、二人の口からは安倍政治の本質をつく辛辣な分析も飛び出した。
安倍首相の改憲に危機感をもっている読者はぜひ、じっくり読んでほしい。
●歴代自民党政権で憲法をここまで軽視する総理大臣はいない!
小林 室井さんに会うのは2度目ですが、そんな感じがしないですね。というのも、家内の口から室井さんの話題がよく出てくるんです。「室井さん、いいよね。言ってること正しいよね」って。私も自分で責任が取れる範囲内で好きなことを言っていますけど、室井さんはああいう敵だらけのなかでも、自分の意見をきちんと言い切っているから、偉いと思う。
室井 ありがとうございます! でも、最近は批判や罵倒ばかりされているから、褒められると何かウラがあるんじゃないかと疑っちゃう(笑)。で、今日は小林先生に、憲法について、いろいろ教えてもらおうと思ってやってきました。安倍政権になって憲法改正の動きが一気に進み始めてから憲法について考えるようになって。少し勉強もしたんですけど、なかなか難しくて。
小林 少しでも興味をもって勉強したのは、安倍さんのおかげですね(笑)。確かに教育に携わる身として、大学が憲法教育をきちんとしてこなかったという反省があります。それ以上に小中高校の教師がきちんと憲法を教えていない。ですから「憲法9条は大事」と言いますけど、どこがどう大事か、多くの人がわかっていない。また「権力者は憲法を守れ」というのは当然の原則なので、これまではあえて説明する必要もないと思っていました。でもそれではダメなんですね。当然の原則さえも理解できない安倍政権 や“安倍教の人々”が改憲を叫ぶ。授業でもっと立憲主義を強調しておけばとよかったと反省もしています。
室井 先生でも反省するんですね(笑)。でも、先生は以前、改憲論者だったんですよね。
小林 いまも改憲論者ですよ。しかし私の改憲は“まっとうな”改憲です。憲法は、国民が幸福に暮らすことを国家が阻害し暴走しないように定める規範です。そして現行憲法は非常によい憲法です。しかし戦争ができないはずの平和憲法9条のもとで、安倍政権は海外派兵を許す安保法制を成立させてしまった。その反省から、権力の暴走を許さないための改正は必要です。つまり国民が幸福になる改正なら歓迎しますが、しかしいまの安倍政権下ではダメです。自民党が出している改憲草案は、国民を戦争に駆り出し、表現の自由を奪い、大衆を貧困に貶めるもので、“改正”ではなく“改悪”です。憲法は国民が権力者の暴走を抑止するためにあるのに、安倍さんは、それを逆転させ“国民を管理統制する”ものに変えようともしている。それは絶対に潰さないといけない。
室井 私も含めて国民が憲法についてもっと興味をもっていれば、ここまで安倍政権が憲法を無視することも、改憲に突き進むこともできなかったかもしれない。でも、憲法をここまでないがしろにしている総理大臣って、ちょっといないですよ!
小林 それはそのとおりです。安倍さんの前までの歴代自民党政権は、「憲法は嫌いだけど守る努力はする」という姿勢でした。ところが安倍さんは「私の使命は憲法改正」と自己陶酔しきっていて、現行憲法を壊すかことしか考えていない。しかも手段が姑息なんだよね。簡単には改憲できないとの自覚があるから、最初は「手続きだけで、内容には触わらない」と第96条の改正手続きのハードルを下げようとした。その後は「いいじゃん、現行憲法なんて無視すれば」というスタンスで、集団的自衛権行使の海外派兵ができる、安保法制を強引に成立させた。