『将棋の子』(講談社文庫)
藤井聡太四段の勢いが止まらない。デビュー戦から無敗を保ち続け、6月28日には公式戦連勝記録を29にまでのばして30年ぶりに記録を塗り替えた。7月2日には、30連勝の大台をかけた対局が行われる予定で、まだまだこの熱狂は続きそうだ。
しかし、この天才中学生へのスポットライトの一方で、同じように“天才”“神童”と言われた多くの子どもたちが、途中で挫折し、将棋界を去っていることをご存知だろうか。その過酷さは凄まじく、ときに精神を蝕まれてしまうケースもあるほどだという。
プロ入りを希望する子どもたちは、まず、奨励会という日本将棋連盟のプロ棋士養成機関に入り、そのなかで昇級昇段していく。そして、三段になったら、1年に2度開かれる奨励会三段リーグに参加することができるようになり、そこで勝ち進んだ上位2名のみが四段に昇格。ここまできてようやくプロとして認められる。つまり、原則的には、1年にたった4人しかプロの棋士は生まれないということになる。
これだけでも、かなり厳しいハードルだが、彼らを追い詰める決定的なものがある。それは、タイムリミットだ。
〈満23歳(※2003年度奨励会試験合格者より満21歳)の誕生日までに初段、満26歳の誕生日を含むリーグ終了までに四段になれなかった場合は退会となる。ただし、最後にあたる三段リーグで勝ち越しすれば、次回のリーグに参加することができる。以下、同じ条件で在籍を延長できるが、満29歳のリーグ終了時で退会。〉(日本将棋連盟ホームページ記載の奨励会規定より)
その結果、地元では「神童」や「天才」の名をほしいままにしてきた子どもたちが、年齢制限までに諸条件をクリアすることができず、失意を胸に奨励会を退会せられるということが日常的に繰り返されている。