「政治って意外とHIPHOP」と言ってしまう自民党の無教養さ
今年4月、山本幸三地方創生担当相による「一番の“がん”は文化学芸員。この連中を一掃しないとダメだ」という発言が炎上したのは記憶に新しい。山本大臣は「地方創生とは稼ぐこと」と定義したうえ、京都の二条城のケースをあげ、「文化財のルールで火も水も使えない。花が生けられない、お茶もできない」などと学芸員を批判したのだ。
金にならない仕事をしている人間など必要ない。だから、観光振興に邪魔だから、博物館、美術館等で文化遺産や歴史的資料の収集、保管、研究調査などを行う重要な仕事をしている人間を一掃しろ、という、文化や芸術に対する敬意のかけらもない反知性主義が自民党政治の本音だ。
今回のケースでも「政治って意外とHIPHOP」なる馬鹿げたキャッチコピーがすんなりと採用されてしまうあたりに、自民党の文化芸術への敬意のなさがよく表れている。
このキャッチコピーを考えた人物は『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日)や『BAZOOKA!!!』(BSスカパー!)内のコーナー「高校生RAP選手権」に端を発したフリースタイルブーム・日本語ラップブームに軽く乗るつもりで書いただけで、ヒップホップという文化をめぐる知識や教養は皆無だと思われるが、言うまでもなく、ヒップホップと政治のつながりは「意外」でもなんでもない。
そもそも、ラップというアートフォームは、1970年代にニューヨークの貧民街で産声をあげたときから一貫して、それまでのポップミュージックではなかなか題材になりにくかったものも積極的に取り上げ続けてきた。黒人差別問題、まん延する違法薬物、意図しない10代での妊娠と人工中絶、HIVなどの性感染症の問題、ドラッグ取引、ギャングの抗争による発砲事件など、そのテーマは多岐に渡る。
パブリック・エネミーのチャック・Dによる「ラップミュージックは黒人社会におけるCNNである」という言葉は有名だが、このフレーズは、ラップという音楽は、レーガノミクスや都市再開発でどんどん苦境に追いやられていくスラム街の黒人たちが、自らの置かれている悲惨な状況を外に訴えるためのメディアとしての役割も果たしてきたということを示している。