恩田陸「ナショナリズムが……とすごく嫌な気持ちになりました」
最終章となる六本木編では、東京オリンピックを機にいよいよ勢いづいた「グンカ」の行進に主人公たちは成す術もなく立ち尽くす。「もはや、世界は彼らのものなのだ──いや、彼らが世界そのものなのか?」と絶望のモノローグまで差し挟まれる展開になるのだが、この描写にも恩田陸の思いが色濃く反映されているようだ。ウェブサイト「BOOK SHORTS」のインタビューで彼女はこのように答えている。
「オリンピックの開催地が東京に決まったときには、これでまた東京大開発だし、ナショナリズムが……とすごく嫌な気持ちになりました」
先日の直木賞受賞後の会見で「今後どんな小説を書いていきたいとお考えになってらっしゃいますか?」という質問に彼女はこのように返していた。
「私は自分のことをエンタメ作家だと思っていて。昔は一息で読めるもの、あっという間に読めてしまうようなものが面白いと思っていたんですけれど、面白さにも色んな種類があって。ちんたら読んだりとか、ときどき立ち止まって、続きを間を開けてから読んだりとか、面白さには色んな種類があるので、これからは色んな種類の面白さを体感できるような小説を書いていきたいと思います」
エンタメ小説の面白さには色んな種類の面白さがある──若者たちの思いが錯綜する物語に、「音楽」を見事に文章に置き換えていく恩田陸の筆致が彩りを添える『蜜蜂と遠雷』は確かに素晴らしいが、その作品で感動を覚えた読者は是非とも『失われた地図』も読んでみてほしい。『蜜蜂と遠雷』とはまた違ったエンタメ小説を味わえるはずだ。ちなみに、直木賞後初の長編小説となる『錆びた太陽』(朝日新聞出版)は、原発事故で汚染された世界を舞台にしたディストピア小説となっている。こちらも近いうちに当サイトでご紹介する予定だ。
(新田 樹)
最終更新:2017.12.01 02:06