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桂歌丸が引退宣言!? 若手噺家にどうしても伝えたかった古典落語への思い、そして戦争反対の姿勢

●戦中、国家によって古典落語が壊された歴史が

 前述の古館との対談で歌丸が「落語を壊さないでくれ」としつつ語ったのは、不勉強なまま浅薄な考えで噺を改変する若手たちの落語に対する向き合い方を批判したものであるが、その裏には、もうひとつ伝えたいことがあったのではないだろうか?

 というのも、かつて落語は、国によって壊された歴史をもっているからだ。1940年9月、当時の落語界は、遊郭に関した噺、妾を扱った噺、色恋にまつわる噺など53の演目を、国のために質素倹約を奨励していた当時の時局にふさわしくないとして圧力をかけられ、半ば強制されるようなかたちで高座にかけるのを自粛した。その53の噺のなかには堅物の若旦那が遊び人により吉原へ連れられていくドタバタを描いた「明鳥」など、今でも盛んに高座に上げられる人気の噺も含まれていた。これを「禁演落語」と呼ぶのだが、その詳細は演芸評論家である柏木新による『はなし家たちの戦争─禁演落語と国策落語』(本の泉社)にまとめられている。

「禁演落語」が指定された後、高座にかけることを禁じられた噺たちを弔うため、浅草の本法寺には「はなし塚」という塚がつくられた。わざわざそんなものをつくったのは、当時の芸人たちによる洒落っ気のこもったささやかな反抗であったわけだが、当時の苦い経験を忘れないように、いまでも、落語芸術協会によって法要が続けられている。歌丸も落語芸術協会の会長に就任して以降は毎年参加しているという。

 ただ、当時の落語界は古典落語の名作を封印するだけにとどまらず、文学や絵画などの他の文化芸術と同じように、戦争協力の一端を担った「国策落語」を新作として次々と発表していくということまでしていた。それらの噺の内容は、軍隊賛美や貯蓄、債券購入、献金奨励などを入れ込んだ、まるでプロパガンダのような内容。歌丸はインタビューで国策落語について「つまんなかったでしょうね」、「お国のためになるような話ばっかりしなきゃなんないでしょ。落語だか修身だかわかんなくなっちゃう」(朝日新聞デジタル2015年10月19日)と語っているが、なかにはつまらないどころか、聴いている人を傷つけるようなグロテスクな噺まで登場した。

 当時のスローガン「産めよ殖やせよ」をテーマにつくられた「子宝部隊長」という落語では、子どもを産んでいない女性に向けられるこんなひどい台詞が登場する。

〈何が無理だ。産めよ殖やせよ、子宝部隊長だ。国策線に順応して、人的資源を確保する。それが吾れ吾れの急務だ。兵隊さんになる男の子を、一日でも早く生むことが、お国の為につくす一つの仕事だとしたら、子供を産まない女なんか、意義がないぞ。お前がどうしても男の子を産まないんなら、国策に違反するスパイ行動として、憲兵へ訴えるぞ〉

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