『歌丸 極上人生』(祥伝社)
●桂歌丸が古舘伊知郎に「引退しようか悩んでいる」
昨年5月に『笑点』(日本テレビ)を勇退した後も、前々から「落語家を辞めるわけではありません。まだまだ覚えたい噺も数多くあります」と宣言していた通り、高座に上がり続けている桂歌丸。そんな彼だが、3月18日放送『平成28年度の主役が大集結! 古舘伊知郎ショー~THE・マッチメイカー~』での古館伊知郎との対談のなかで「(引退について)いま悩んでいる」と発言し、大きな話題となっている。
歌丸は昨年の暮れから今年の頭にかけて肺炎のため入院。現在では高座に上がる際、酸素吸入器が必要な状態になっているが、そんな体調を「息を吸うのが苦しい」、「息が吸えないというのは金がないより苦しいですね」と説明しつつ、古館に向かってこのように告白し始めたのであった。
「実はですね、ついこの間まで辞めようと思ったことはこれっぽっちもなかったんです。ものすごい苦しい時代もありました。でもね、本当に自分で好きで選んだ道ですからね、好きで選んだ道を自分で辞めちゃったら、自分自身の負けになると思ってね、歯をくいしばりました。ところがですね、いま言った通り、こんなような状態になっちゃって、これでやってっていいのかしらって、正直言っていま悩んでいるところなんです。お客様がたに失礼になるんじゃないか、あるいはみっともないんじゃないか。で、一番の問題は、まあこれは病気ばかりじゃない、年(のせい)もあると思うんですけど、噺の覚えが悪くなっちゃったんですよ。ですからね、本当にいま悩んでいる最中です」
この告白に古館は思わず面食らっていたが、その対談のなかで歌丸は、もうひとつ大事な話をしていた。それは、後進の落語家たちに対しての「落語を壊さないでくれ」という嘆願である。
「いじっていい落語といじって悪い落語があると思うんです」
「できてる噺をそうやっていじり回さないでもらいたいですね」
これは、古典落語の噺の尺を半分以下にまで切り落としたり、合間に元の噺にはないくすぐりを加えて演じたりする若手の落語家たちに対する警鐘なのだが、歌丸は古典落語に対して並々ならぬ思いを抱いていることでもよく知られている。特に、同じ古典でも、もう廃れてしまいどの噺家からも見向きもされなくなってしまったような噺を現代に甦らせる作業に尽力しており、その古典落語への深い造詣は、いまの落語界で右に出る者はいない。
当の歌丸自身も、同じく古典落語の復興に力を注いだ人間国宝の桂米朝にこんなことを言われたと自著のなかで冗談混じりに振り返っている。
「みなさんがやってる噺ばっかりやってもつまらないし、誰もやってなければ、比べられることもありませんしね、いつだったか、(桂)米朝師匠(平成二十七年三月十九日没、享年八十九)にも言われたことがありましたよ。あんたは変わった噺ばっかりやってますねって」(『歌丸 極上人生』祥伝社)