たとえば、「日本的な職業は日本人がすべきか否か」という議論で、坂上が「たとえば銀座の1人3万円の寿司屋、そこにガラッと開けたらマイク(番組に出演していたカナダ人男性)が立ってるんですよ、で、握ってる。僕だったら、えっ!!って思うよ」と俗論をぶったときのこと。りゅうちぇるは「僕も、えっ!!(てなる)」と一瞬同調するのかと思わせたうえで、「変なネックレスって思っちゃう」とすかし、「だけど、やっぱりそういうところってすごい方がきっとマイクさんに教えて、伝統を引き継いでやってらっしゃるんだなって」と冷静に反論してみせた。
つまり、人種や国籍という属性と、その人個人の趣味嗜好とをさりげなく切り分けてみせたうえで、師匠が技術を認めているのに人種や国籍で判断することのおかしさを気づかせたのだ。これに説得されたのか、坂上も「僕は最初からは無理かもしれないけど、時間をかけてだんだんその人がわかれば……」などと態度を軟化させていた。
「いじめ加害者を実名報道すべきでない」という意見は、「いじめに対する認識が甘すぎる」など激しい非難にさらされたが、それも違うだろう。りゅうちぇる自身、メイクやファッションを理由に学生時代からからかわれたり浮いていたことを明かしており、いじめられたり疎外される痛みは十分わかっているはずだ。
「セブンティーン」(集英社)2016年12月号では「私はいじられキャラで、イヤだ」という中学生の悩みに、ぺことともにこんなふうに答えている。
大阪ではいじられキャラはクラスの人気者だというぺこが「いじられたら、「それは嫌や」と言っちゃえば……」とアドバイスすると、りゅうちぇるは「そしたらめっちゃ空気が悪くなるんだよね。権力がすべてみたいな学校ではいじられるコは弱いコなんだよ」「僕の学校はカッコいいコとかわいいコしか権力がなくて、それ以外は弱くて、いじられる感じだった」と回答。
いじめじゃなくて、ただの“いじり”というのは、いじめ加害者がよく口にする言い訳だが、いじられる者にとってはそれが詐術であることや、空気を悪くしてはいけないという同調圧力も、りゅうちぇるは敏感に見抜いている。
こうしたりゅうちぇるの姿勢を形作っているのは、多様性へのまなざしだ。
りゅうちぇるといえば、独特のメイクやファッションが代名詞だが、学生時代それを理由に、からかわれたり嫌われたり、浮いた存在だったという。自分を貫ける場所、堂々と自分を表現できる場所として原宿を目指し上京してきたと、自身のブログなどでたびたび語っている。
個性や自分らしさを大切にしたいというりゅうちぇるの信念は確固たるもので、テレビ番組でもその思いの強さをかいま見せたことがある。