それにしても不思議なのは、仮にも法務省管轄の役所の公式報告書がなぜこんなネトウヨ並みのデタラメを書き綴っているのか、という点だ。
しかし、元共同通信社の公安担当記者で『日本の公安警察』(講談社)などの著書もあるジャーナリスト・青木理氏は「それこそが公安調査庁。あの役所にとっては珍しいことでもなんでもない」と苦笑する。
「警察庁や警視庁の公安部門ならともかく、公安調査庁に大した情報収集力も調査能力もありません。かつてオウム真理教に対する団体規制を請求した際は、スポーツ紙のコピーを証拠として提出したような組織ですよ(笑)。警察の公安部門なら、被疑者を検挙すれば裁判などの場で一応はチェックを受けますからそれなりの緊張感はあるけれど、公安庁には逮捕権も強制捜査権もなく、漫然と情報収集まがいのことをやっているだけ。適当な情報を上げても外部の検証を受けることもないから、いい加減な情報が飛び交う。これまで公安調査庁のガセネタでどれだけの新聞や週刊誌が誤報をとばしてきたか(笑)」
しかも、青木氏によれば、「公安庁の最大の問題は、自分たちの組織延命、予算獲得のために監視対象の危険性を煽っていること」だという。
そもそも、公安庁は前述のように破壊活動防止法とセットで設立され、ながらく共産党や過激派の運動を監視してきたが、この60年以上、なんの破壊活動の証拠も掴むことはできず、政府内でも、“無能官庁”“カネの無駄遣い”“時代遅れの情報機関”と呼ばれていた。
ようは、リストラ候補ナンバーワンの存在だったわけだが、90年代半ばにオウム真理教事件が起きて団体規制法の対象になったため、それを大義名分にかろうじて組織は存続された。しかし、ここ10年ほど前から、オウム真理教の後継団体などの動きもたいしたものではなくなり、再び不要論が盛り上がり始めた。実は、公安庁の今回の沖縄をめぐるデマ拡散もそのことと無関係ではない。青木氏もこう分析する。
「危機を煽らなければ、自分たちの存在意義がなくなり、予算や人員も減らされてしまう。だから毎年発表する『内外情勢の回顧と展望』なる報告書などでは、必死になって危機を煽るわけです。オウムの危険性などには事前にまったく気づかなかったくせに、事件が終わって壊滅状態になってから『危ない、危ない』と言い続けているのは典型例。質の悪い狼少年みたいなものです。今回も、安倍政権が敵視する沖縄に目をつけ、自分たちの組織維持に利用し始めたということでしょう」
“無能官庁”が生き残りのために仕掛けるデマゴギーに決して騙されてはならないが、一方で、公安庁は最近、安倍政権下でにわかに勢いを取り戻しつつある。今後も注視しておく必要があるだろう。
(編集部)
最終更新:2016.12.25 11:22