同作を「右傾エンタメ」と端的に評したのは作家の石田衣良で、「先の大戦への恨みを晴らすリベンジ小説」「『強い父の物語』はもう歴史の中にしか存在しない。国威発揚の物語も楽じゃないのだ」と鋭く分析したのは文芸評論家の斎藤美奈子だが、まったくもって言い得て妙。そして、これを『永遠の0』に続いて山崎貴監督が映画化し、おそらくはそれなりのヒットを記録するのだろうから、つくづく嫌気がさしてくる。
出光佐三は、生前も死後も、毀誉褒貶のある人物だった。たしかに日本経済に与えた功績は計り知れないかもしれないが、これを「今、日本人が必要としている物語はこれや!」(百田)なるメルヘンに仕立て上げるのは、「ノンフィクション小説」として誠実さを欠いているというだけでなく、現実を“プロパガンダ作品”という表現芸術のもっとも堕落した形態に加工せしめることである。
「昔の日本はスゴかった!」「日本人はエラかった!」──その種の自家発電装置を“愛国ポルノ”という。読者諸賢は、くれぐれも騙されないでいてほしい。
(小杉みすず)
最終更新:2016.12.10 11:04