〈米軍基地移転問題など、沖縄に関する一連の問題に対する本土の無理解をみていると、「対米従属の自己目的化」がいかに進んでいるかがわかる。かつての親米保守派の対米従属には、従属を通した自立という目的が一応あった。だが、今は「従属のための従属」にしか見えない。〉
たしかに、歴代日本政府は日米安保を軸にする対米従属路線をずっと敷いてきたが、戦後の政権は占領体制からの脱却と、冷戦構造の中で日本が生き残るための戦略として行っていた。ところが、冷戦が終わり、対米従属の理由がなくなった後も、歴代の自民党政権はその関係を維持するどころか、白井のいう「対米従属の自己目的化」というかたちでさらにエスカレートさせていった。日米同盟が必要だというフィクションを無理やりつくりだし、アメリカのための政策を積極的に採用し、それがまるで自国の利益になるような虚偽の物語を国民に喧伝してきたのだ。
その典型が安倍政権の集団的自衛権容認と新安保法制である。安倍政権は日本の防衛のため、などと謳いながら、アメリカの戦争に自衛隊を参加させ、自衛隊員の血を流させるという倒錯的な政策を強行したが、これなどまさに「対米従属の自己目的化」の極致だろう。
いや、政権だけではない。マスコミや国民もこうした政権による喧伝によって「対米従属の自己目的化」が内面化してしまい、いまや日本中が理由もわからないまま「なんだかんだ言ってアメリカに頼らなければダメだよね」という空気に支配されている。
白井氏は、今回の大統領選挙に対する議論や報道じたいが、この対米従属姿勢の典型だといっている。
〈本来、自分たちのあるべき姿のイメージがあって、それに対して相手はどう出てくるだろうかという話であるはずが、相変わらず「米国はどうなる」という話ばかりだ。日本自身のビジョンがまったく議論されていない。〉
そういう意味では、これは、トランプが大統領にならなかったからよかったね、で済む話ではない。そもそも、アメリカの「一国主義」への転換は、アメリカ国民全体に広がっている意識であり、仮にクリントンが大統領になっても、その流れにはさからえないはずだ。そして、これからもアメリカからは日本への「安全保障への負担要求」が出され続けるだろう。対米従属が自己目的化した政権はそのたびに要求に応じ、一方で、極右勢力はそれに便乗して、軍拡、さらには核武装まで主張し始めるだろう。
こうした動きに騙されないためにも、私たちは白井氏のいうように、「米国はどうなる」ではなく、「自分たちがどうあるべきか」を自分の頭で考える必要がある。リベラルにこそ、覚悟が問われる時代なのだ。
(エンジョウトオル)
最終更新:2016.11.09 01:26