西村氏は東大法学部卒、1979年に警察庁に入庁した。2013年1月には警察官僚としては警察庁長官に次ぐナンバー2の警視総監に就任するが、わずか1年弱で退官し、14年2月から内閣危機管理監に就任する。これまた、杉田副長官の推薦で安倍首相が「一本釣り」したと言われている。
「今回の人事も杉田官房副長官主導で進められた。西村氏はもともと警視庁の広報課長もやっており、マスコミにも太いパイプをもっている。この間も杉田官房副長官の手足となって、官邸でマスコミ対策も担っていた。その人脈を使って、マスコミをコントロール。天皇サイドからの情報リークの動きをあらかじめ潰そうという意図もあるのでしょう」(全国紙政治部デスク)
さらに、西村氏の最大のミッションはズバリ「陛下のご意向潰し」だ。安倍政権にとって皇室典範の改正によって天皇の「生前退位」を認めることはもってのほかだ。なぜなら、安倍政権の支持母体である日本会議はじめとする右派の皇室観に反するからである。天皇の意向が表面化してからというもの、安倍応援団である日本会議系の学者が入れ替わり立ち替わり天皇批判を繰り返しているのは周知のとおりだ。
政権維持のためには、天皇自身の意思を踏みにじってでも、右派勢力の意志には従わなければならない。そこで、安倍首相が着々と進めているのが、特別措置法によっていまの天皇に限って「生前退位」を認める方針だ。宮内庁人事が発表されたのと同じ23日、政府はこの問題を検討する有識者会議のメンバーを発表した。議論をまとめる座長には今井敬・経団連名誉会長が就く見通しだという。今井氏は、首相の側近中の側近といわれる今井尚哉政務秘書官の叔父で、安倍首相とも頻繁に会食を重ねている。
「有識者会議のメンバーを見ても、安倍首相に近い人脈ばかりで、皇室問題の専門家はひとりもいない。明らかに官邸の思惑通りの提言を出させようというのがみえみえです」(前出・全国紙政治部デスク)
そしてこの有識者会議の事務局には、前述の西村氏が宮内庁を代表して参加する。つまり、有識者会議の議論もすべて官邸のコントロール下に置き、特措法での対応を既成事実化しようという魂胆なのだ。しかし、これは明らかに天皇の意思にも反する行為だ。国民世論にも逆行している。例えば、朝日新聞が9月に実施した世論調査では、91%の人が「生前退位」に賛成し、そのうち76%が「今後もすべての天皇が退位できるようにするのがよい」と答えている。
実は、こうした天皇と安倍首相の暗闘はいまに始まったことではない。安倍は過去にも警察官僚を使って天皇の意向を握り潰そうとしたことがある。小泉純一郎政権末期の2005年、首相の私的諮問機関「皇室典範に関する有識者会議」が「女系天皇」も認める報告書を取りまとめた。将来にわたる天皇制の維持を心配する天皇自身の意思を当時の小泉首相がくみ取ったものだと言われ、小泉首相は本気で皇室典範改正を考えていた。しかし、当時官房長官だった安倍氏は「男系男子」にこだわり、なんとか小泉首相を翻意させようと躍起だった。そのとき安倍氏の手足となって暗躍したのが、当時警察庁長官だった漆間巌氏だったと言われる。