「もんじゅ」廃炉とともに発表された新たな司令塔組織の設立。その背景のひとつには、八方塞がりとなった「もんじゅ」を管轄する文部科学省からその利権を奪う経済産業省の権益争いがあった。というのも「高速炉開発会議」は「もんじゅ」を所轄する文部科学省ではなく、経済産業省が中心となり、ほかにも電力会社や原子炉メーカーなど民間企業も参加するものだからだ。つまり、これは経産省を筆頭とした原発マフィアが勢ぞろいして、新たに核燃料サイクルを推進するための場であり、さらにはそのため投入される莫大な予算を“利権分配”をする場なのだ。廃炉報道のあった21日、「時事ドットコムニュース」ではこんな報道がなされている。
「存続を求める文部科学省と、もんじゅ抜きの核燃料サイクル政策を目指す経済産業省の主張が対立。最後は政権に強い影響力を持つ経産省の意向が通る形で決着した」
「原子力規制委員会が昨年11月に(もんじゅの)運営主体の見直しを勧告したのを受け、文科省は電力会社などに参加を呼び掛ける形で新たな運営主体を模索。しかし、政府関係者によると、『経産省が邪魔をし、企業に応じないよう求めた』のが内幕という」
そして「もんじゅ」に代わり、経済産業省が推し進めるのがフランスの高速炉計画「ASTRID(アストリッド)」プロジェクトだ。これは工業用実証のための改良型ナトリウム技術炉だが、この技術開発を日仏で進め2030年までの実用化を目指すという。しかもこの高速炉計画はすでに2年前から決まっていたものだ。
「両首脳は、経済成長においてはイノベーションが重要であることで一致し、会談直後の署名式においては、安全性の高い新型原子炉ASTRIDを含む技術開発協力に関する取決めが著名されました」(外務省が発表した日仏首脳会談概要より)
これは2014年5月5日に行われた安倍首相とフランス・オランド大統領の首脳会談で高速炉技術設立に交わされた協力合意だが、「ASTRID」プロジェクトはすでに2年前から安倍政権のもとで “国策”として決定していた。そして新たな「ASTRID」計画があったからこそ、失敗作の「もんじゅ」の廃炉を決定できた。
つまりこれ以上「もんじゅ」に固執すれば莫大な予算への批判は必至だが、しかし目先を変えて「ASTRID」という新たな事業とすれば、国民からの批判もかわせるし新たな予算もつけられる。そのため文科省の「もんじゅ」から経産省の「ASTRID」に名前を変え移行した。それだけだ。
しかもこれまで投入されてきた1兆2000億円に加え、「もんじゅ」の廃炉費用は新たに3000億円もが試算されているが、「もんじゅ」失敗の原因究明はおろか責任論さえあがっていない。
「ASTRID」計画にしても未だ基本的な設計段階で、すでに計画が遅れているだけでなく、予算も基本設計が終了予定の2019年までしかない。地震大国日本で建設するには耐震性に問題があるとの指摘もある。また当初フランス側は「ASTRID」の実験施設として「もんじゅ」を使うことを要望していたがそれもできなくなった。そもそも高速炉じたい冷却材であるナトリウムを取り出す技術が確立されていないため、世界でも実用化されてはいない。