挙げ句、この無意味な前提でまとめられた自民党LGBT法案の概要でさえ、党内では反発が高まっており、「差別解消を強要する内容となれば、息苦しい社会になる」などと否定する者までいるという(産経新聞、8月24日付)。
差別解消を「息苦しい社会」などと言い出す政党の、さらには法案自体も付け焼き刃以下の内容なのに、それを批判するのならばいざ知らず、評価して稲田を表彰する……。「ご冗談でしょ?」と考えてしまうのも無理からぬ話なのだ。
しかも、本サイトでは再三追及してきたように、稲田は現政権内でも筆頭にあげてもいいほどの排外的な極右思想の持ち主であり、なおかつ在特会との蜜月が裁判所にも認定されたほどの差別主義者。同時に、男女共同参画社会基本法や選択的夫婦別姓制度の法制化、婚外子の相続格差撤廃などに猛反対してきたように、「伝統的家族観を守る」とがなり立ててきた人物だ。
〈夫婦別姓は家族としてのきずなや一体感を弱め、法律婚と事実婚の違いを表面的になくし、ひいては一夫一婦制の婚姻制度を破壊することにつながる〉
〈「多様な価値観」を突き詰めて、同性婚、一夫多妻、何でもありの婚姻制度を是としてよいのか。例外を法的に保護すれば、法の理想を犠牲にすることになってしまう〉(毎日新聞2007年1月8日付)
「家族を特別視しない価値観が蔓延すれば、地域共同体、ひいては国家というものも軽んじるようになってしまいます。帰属意識というものが欠如して、バラバラの、自分勝手な個人だけが存在するようになるでしょう」(「月刊日本」08年3月号/ケイアンドケイプレス)
こうした稲田の考え方は、戦前の全体主義の復古をめざすうえで根幹を成すものだ。実際、日本会議をはじめとする改憲極右は憲法9条以上に24条の改憲にこだわっていると言われるが、自民党の憲法改正草案では基本的人権の尊重は捨て置かれる一方で家族の責任が強く押し出され、まるで戦前の家父長制、家制度の復活を思わせるものだ。当然、ここに性的マイノリティの人権を守るという視点は皆無で、むしろ生殖に関与する異性愛者以外は排除されていくだろう。
性的マイノリティの権利向上どころか、排除の思想を押し通そうとしている差別主義者。これが稲田朋美という政治家の正体であることは、このように彼女の言動を少しでも調べればすぐにわかるような話だ。
今回、稲田を表彰した「フルーツ・イン・スーツ・ジャパン」なる団体は、いったいどういう意図があるのだろか。