■テロやスパイと重国籍は無関係! あのK・ギルバートまでが「人種差別」と批判
しかも、世界はいま、連中ががなり立てる父系血統主義というカルトとは真逆の方向性を打ち出している。事実、重国籍を認めている国はおおよそ半数にも及び、先進国でもアメリカ、イギリス、フランス、ロシア、カナダ、スイスなど欧米を中心にかなりの数にのぼる。重国籍の政治家も珍しくない。たとえば元カリフォルニア州知事のアーノルド・シュワルツェネッガーがアメリカとオーストリアの二重国籍者であることは有名だ。一国の政治のトップでも、ペルーのアルベルト・フジモリ元大統領(ペルーと日本)やタイのアピシット・ウェーチャチーワ元首相(タイとイギリス)などの例がある。加えれば、「イギリスのトランプ」とも言われるバリバリの保守タカ派政治家、ボリス・ジョンソン前ロンドン市長も英米の重国籍者だ。
保守派が主張する“「純血」=「国家への忠誠心」”というのがカルト的な幻想であるのは自明だろう(ちなみに、最近保守論客の仲間入りを果たしたケント・ギルバート氏ですら、今回の件に関してはCS番組で「人種差別に聞こえる」と珍しくまっとうなことを言っている)。
なお、ヨーロッパでは60年代までは二重国籍に否定的であったが、97年のヨーロッパ国際条約では肯定的に変化した。これは、国際結婚やEU国間の自由移動、移住労働者の増加や定住などの現実に即したものだ。また、二重国籍のメリットとしては、諸分野で活躍した者が「母国」に帰国しやすく経済効果をもたらすことや、複数のアイデンティティをもつことで国家間の摩擦を防止することなどが挙げられている。
他方、保守派やネトウヨは重国籍を認めるデメリットとして「テロを誘発する」などと喧伝する。ツイッターでもこのような主張がよく見られた。
〈二重国籍はスパイによる情報流出およびテロの危険性が増すのでは?〉〈日本国籍と他国籍を持つ者が、2つのパスポートを使い日本に簡単に入国してテロをする可能性も否定出来ない。この二重国籍問題は大きな問題にするべきです〉〈事実上二重国籍は放置状態であり、従って犯罪、テロ、スパイ、脱税などもやり放題状態だと推測されます。これは安全保障上の懸案事項である以上早急に手を打つ必要があります〉
見当違いも甚だしい。たとえば二重国籍を認めているフランスでは、昨年のパリ同時テロ事件を受けてフランソワ・オランド大統領がテロ関連の罪で有罪になった者から国籍を剥奪する内容を含む改憲案を示し、激しい批判にあった。フランスの歴史人口学者・家族人類学者であるエマニュエル・トッド氏は、朝日新聞のインタビューでこのように断じている。
「テロへの対策としてもばかげています。想像してください。自爆テロを考える若者が、国籍剥奪を恐れてテロをやめようと思うでしょうか。逆に、国籍剥奪の法律などをつくれば、反発からテロを促すでしょう」(16年2月11日付)
すなわち、「アゴラ」や産経新聞、ネトウヨたちは、カルト的な血統主義をふりかざすことが共同体の分断を生み、かえって国家を危険にさらすということをまったく理解していないのだ。言い換えれば、蓮舫氏の「二重国籍」疑惑をあげつらって「国家への忠誠心がない」などとほざいている連中のほうこそ、結局、グロテスクな差別主義をむき出しにすることで「国益」を害しているのである。