実は、こうした幼児期からの早期英才教育は最近になって、その弊害が指摘されはじめている。教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏の著書『追いつめる親』(毎日新聞出版)では「あなたのため」という大義名分のもとに親が子におこなう行き過ぎた「しつけ」や「教育」が「教育虐待」となり、結果的に子どもの精神を蝕んでいる現状が明らかにされている。
たとえば、1980年代に東京郊外に生まれた知佳さんのケース。知佳さんは学歴コンプレックスを持つ母親に幼いころから「なんとしても大学に行きなさい」と言われ育った。
〈物心がついたころから、毎日ピアノの練習と勉強をさせられていた。遊んだ記憶は、ほとんどない。
ピアノは夕飯前に毎日約2時間。間違えると罵倒された(略)。勉強は夕食後、毎日4時間。夕食を食べ終わると1分も休まずに勉強を始めなければならなかった。〉
しかも中学になると英検や漢字検定の勉強をさせられ、体調に異変をきたしていく。体の震えやめまいなど自律神経失調症の症状も出たが、しかし母親の対応は驚くべきものだった。
〈不調を訴えると、母親は病院に連れて行くどころか、『あんたはその程度の人間だったのね。これだけやってあげているのに、残念よ』と吐き捨てた。〉
その後、知佳さんは大学卒業後、家を出て結婚するが、苛立ったり、「子どもなんていらない」という思いに悩まされ続けているという。
「私はまるで母親の所有物でした。自分の人生ではなく、母親の人生をいきてきました」(知佳さんのコメント)
同書では親から過干渉とも思える「教育虐待」を受け摂食障害やうつ病を患ったり、自殺したケースも紹介されているが、それは勉強に限らない。スポーツ界での「教育虐待」も厳しく批判している。
〈教育虐待というと新しいタイプの虐待のように聞こえるかもしれませんが、スポーツの世界では昔から当たり前のように行われて来たことではないかと思います。〉
〈スポーツ界のサラブレッドが幼少期から英才教育を受け、テレビカメラの前で親から罵倒され涙を流している姿を見ることは多い。親子の感動の物語という演出になっているが、一歩間違えればあれも教育虐待かもしれない。〉(同書より)