まさに「息を吐くようにウソをつく首相」の真骨頂と言えるだろう。後段の〈年金額が減るなどということは、ありえません、このことを明確に申し上げたいと思います〉というのも真っ赤なウソだ。これは、今年2月の衆院予算委員会で他ならぬ安倍本人が「想定の利益が出ないなら、当然、支払いに影響する。給付に耐える状況にない場合は、給付で調整するしかない」――つまり運用で損失が出れば年金額を下げると、明確に答弁している。
国会での自らの答弁をFacebookで否定する首相というのも前代未聞だろう。ところで同じFacebookにはこんなことも書かれている。
〈安倍政権の3年間で37.8兆円の運用収益が生まれました。仮に5兆円の損失があったとしても、十分な収益が確保されています。民主党政権の3年間で運用収益が4兆円ほどだったことと比較すれば、その大きさを御理解いただけると思います〉
安倍の取り巻きもこの反論を多用し、一部新聞にまで紹介されている理屈である。だが、バカも休みやすみ言って欲しい。そもそも今回、5兆円もの年金が溶けてなくなってしまった原因は、アベノミクスの一環と称して年金をリスクの高い株式で運用することにしたからだ。そのことは以前、本サイトでも詳しく解説している。
GPIFはかつては国債など安全な国内債券(60%)を中心に、リスクのある国内外の株式は最大でも24%を超えないという方針で運用されてきた。それを、安倍政権はGPIFの人事に介入し、国内債券35%、株式50%と逆転させてしまったのだ。14年12月のことだった。
安倍の言う「3年間の運用収益」というのは、運用方針が変更される以前に稼いだ分なのだ。逆に言うと、安倍政権の意向に沿った運用に変更した途端、5兆円もの損失を出してしまったというわけだ。そのことを安倍は正直に認めるべきだ。GPIFの主な運用先は、国内債券、外国債券、国内株式、外国株式で、2015年度に唯一プラスになったのは国内債券だけだったという。つまり、アベノミクス・ポートフォリオに変えなければ着実に収益を上げていた可能性が高いのだ。
さらに、16年度も英国のEU離脱を受けて世界中で株価が暴落したこともあり、同程度の損失がすでに発生しているとの指摘がある。7月5日の東京新聞は野村証券の西川昌宏チーフ財政アナリストの試算として16年4月〜6月だけで約5兆円の運用損失が出る見通しを報じた。15年度分と合わせて、すでに10兆円もの年金が喪失してしまった計算になる。