生涯童貞を貫いたと言われる宮沢賢治(財団法人「宮沢賢治記念会」公式ホームページより)
「20代男性の53.3%が異性との交際経験なし」。20〜40代の恋愛と結婚に関する調査を行った明治安田生活福祉研究所が、こんな数字を発表して話題を呼んでいる。たしかに普通に考えると、20代男子の半分が「童貞」もしくは「シロウト童貞」ということになり、けっこうな数字だ。
実際、この結果をうけて、「男の半分が童貞ってどーよ」「このままだとどんどん少子化が進む」「若者はもっとリアルな恋を体験すべきだ」「童貞なんていつまでも守っていないで早く捨てろ」などという声が噴出している。
しかし、童貞が増えるというのはそんなにダメなことなのだろうか。
〈世間には性経験や結婚の有無で人に上下の格付けをする風潮があり、童貞は侮られがちである。だが、人の才や器は、人体の一局所の特殊な摩擦経験の有無によって決まるものではない、「独りで生きて何が悪い」と、絢爛たる先人たちの姿は教えてくれる〉
こう書いているのは、古今東西の童貞・処女のまま生涯を終えた偉人たち約80名の人生をまとめ話題となっている本、松原左京・山田昌弘『セックスをした事がない偉人達 童貞の世界史』だ。
同書によると、大きな仕事を成し遂げた偉人には、童貞のまま生涯を閉じたひとがけっこう多いのだという。たとえば、同書がその代表として取り上げているのが宮沢賢治だ。
春本のコレクターとしての側面も知られ、無性愛者ではなかった宮沢賢治が童貞を守り続けた理由には、宗教上の理由、家族の仲が親密過ぎて他者が入り込む隙間がなかった、性愛への恐怖があったなど、複数の説があり実際それらの原因が複合的に混じっていたのだと考えられているが、そのなかのひとつに「仕事に集中したいという思い」「創作が代償行為となっていた」というものがある。本書では押野武志『童貞としての宮沢賢治』(ちくま新書)にある彼のこのような言葉が引用されている。
〈性欲の乱費は君自殺だよ、いい仕事は出来ないよ。瞳だけでいいぢやないか、触れてみなくたつていいよ。性愛の墓場迄行かなくともいいよ〉