いや、逃げているのは安倍首相だけではない。憲法記念日の特別番組として3日に生放送された『憲法70年 9党代表に問う』で、前述したNHKの世論調査結果についてどう読み解くか?と質問された高村正彦自民党副総裁は、数秒間フリーズ状態に。そのあと高村副総裁が絞り出したのは「平和安全法制ができて集団的自衛権の一部を限定的に行使できるようになったため、喫緊の必要性が減じたということは言えるかもしれない」という、無理矢理にも程がある話だった。
その上、高村副総裁は「急に数字を読み解けと言われても」と、司会のNHKアナにキレだす始末。安保法制での暴走は棚に上げて「(改憲の)発議で強引なことをするなんてありえない」と言う一方で、「憲法改正をどこかしたい」と漠然すぎる回答を行った。
政権には何のツッコミも入れられず、両論併記と見せかけて改憲へ誘導する──。3月24日に行われた高市早苗総務相の「電波停止」発言に抗議するジャーナリストたちによる会見では、岸井成格氏が「(NHKは)いつも最後に政府与党の言い分をくっつけることでニュースを完結させようとしている」と指摘し、大谷昭宏氏も「(国会論議のニュースは)必ず政府側答弁で終わらないといけない」と、NHK内部でルールができあがっていることを滲ませていた。しかし、NHKの憲法関連の報道を観ていると、さらに政権への忖度ぶりに拍車がかかり、世論さえ無視しはじめている。かろうじてドキュメンタリーでは政権に一矢報いるような番組も少なからずあるものの、今回、憲法にかんするドキュメンタリーが放送されることはなかった。
こうして危険な憲法改正の中身が報じられないまま、7月の参院選になだれ込めば、どうなるのか。そう考えると、NHKは公共放送の有名無実化を認め、国営放送なのだと開き直ってもらったほうがまだ害が少ないのではないか。そんな気さえしてくるのだった。
(水井多賀子)
最終更新:2016.05.04 10:23