『ルポ 塾歴社会』(幻冬舎新書)
立て続けに、東大生をひな壇に並べたバラエティ番組を見た。3月13日放送『日曜ファミリア・さんまの東大方程式』(フジテレビ)と、22日放送『ケンカ上等!大激論!好きか嫌いか言う時間 日本イライラ解消SP』(TBS)だ。大雑把に言えば、東大生を「やっぱりすごい」「さすがに変わった人ばかりだ」「でも悩みもある」「そして変わりつつある」と上げたり下げたりする内容。番組改編期に手早く作られる番組として、「東大」を抜群のブランドとして突出させる構成がまだまだ重宝されていることに驚いてしまう。
自分が中高生だった20年近く前にもこの手の番組を頻繁に見かけたが、いざ学生期を通り過ぎると、この辺りの変遷への興味が薄れ、「少子化で大学全入時代が到来、定員割れした大学が経営に苦しんでいる」といった断片的な情報を得るに留まってしまう。そんな相当前に得ていた情報を一気に改めてくれるのが、「学歴ではなく“塾歴”が『勝ち組』を作る」と指摘する、おおたとしまさ『ルポ 塾歴社会』(幻冬舎新書)である。学歴ピラミッドの構造は変わらずとも、受験エリートの“生成方法”がガラリと変わっていたことを知らされる。
「今、日本の受験勉強においては、サピックスから鉄緑会そして東大へと、1本の『王道』が存在する」と著者。自分の学生時代に一世を風靡していた塾といえば「四谷大塚」「日能研」である。しかし、今、進学校の中学受験塾として突出した成績を上げているのが「サピックス小学部」であり、著者作成・2015年度のデータによれば、それぞれの合格者における占有率として、開成62.0%、筑波大付属駒場70.3%、桜蔭63.1%という圧倒的な数値を叩き出している。首都圏の中学受験塾大手6社の学力帯別合格者比率を比べてみても、偏差値65以上の最難関校の割合が26%と、サピックスが抜きん出ている。他の塾の数値を抽出すると、四谷大塚9%、日能研7%、私事ながら小学生の時に自分が通っていた市進学院はわずか4%に甘んじている。
学力最上位層をターゲットにした塾「TAP」から独立してできた「サピックス」は、09年に中学部が、10年に小学部が、それぞれ代々木ゼミナールに買収される。小学部はとりわけ好調な成績を収めていただけに塾自体が「大衆化してしまうのではないか」との懸念もあったようだが、サピックスの快進撃は続く。知識の詰め込みではなく、「知識を素早くなめらかに使いこなす方法」を重視、授業に休み時間はなく、小学6年生になれば17時から21時までぶっ続け。復習主義に徹し、何度も繰り返すことで頭に知識を定着させる。塾の費用も、3年間で約250万円と割高なわけでもない。