しかも、そのスキャンダルが起きたのは、よりによって夢の武道館公演直前であった。そのことに対し、NEXT YOUのメンバーのなかでも人一倍「アイドル」としてのプロ意識が高く、この件に最も怒りをあらわにした鶴井るりかに対し、主人公はこう語りかける。
〈「悪く言ってくる人の頭の中にいる自分って、どんなだろうって」
たとえそれがいたしかたない理由でも、外見の「劣化」は許されない。
発言、行動、そのすべてに全く矛盾がないように生きなければならない。いろいろ言われることはしょうがないのだからどんなことがあっても「スルー」しなければならない。
歌とダンスだけに全力を注がなければならない。新しいフィールドへの挑戦は、どうせ無理なのだから、すべきではない。
アイドルにお金を注いでいるファン以上に、幸せになってはならない。
余計なことは考えずに、歌って踊っていれば、それでいい。
「それは私のなりたい自分じゃなかった」
(略)
「それに、私が昔好きだったアイドルとも、違う気がした」
(略)
「そしたらね」
(略)
「私のことを好きだって言ってくれる人の頭の中にある欲望に応えたいって、思っちゃったの」
(略)
「るりか、いつも言ってるよね。アイドルは夢を売る仕事なんだから、人間らしいところを見せちゃダメって」
(略)
「でもね、夢って、叶ったら幸せになる人がいるときに使う言葉だと思うの、私」
(略)
「るりか、応え過ぎちゃダメだよ」
(略)
「私たちに、こうすべきだ、こうすべきだって言ってくる人の頭の中にばっかりいたら、ダメだよ」
(略)
「正しい選択なんてないんだもん、どこにも」〉
そのような思いは、作中に出てくるこの言葉に象徴される。
〈「アイドルじゃなくなったあとも、生きていくんだよ、私たちって」〉
〈「そういうこと考えてあげられるのって、自分だけなんだよね、たぶん」〉
ひとりの女の子のかけがえのない青春をまわりの大人やファンが縛り付けるのは容易いことなのかもしれないが、縛り付けた当人たちはその後の彼女たちの人生を決して保障してはくれない。