しかし、そこには大きな穴がある。「事故物件の告知義務は、次に入居するひとり目のみ」という業界ルールが存在するのだ。事件が起きた住人との間にひとりでも別の住人が住めば心理的瑕疵は薄まると過去の裁判例でも認められているため、このルールを適用している業者も多い。そこで横行しているのが「物件ロンダリング」だ。
一例をあげれば、事件が起きた後、管理会社の社員がその家を短期間契約する。そうすれば、次の住人には告知義務が発生しないため、通常通りの家賃で貸し出せるというわけだ。
また、ひとり目だけ「定期借家」で貸し出すという方法もある。定期借家は、転勤中や取り壊し前など、期間限定で家を貸し出したい時に用いる制度。これを使い、一人目の住人には告知をしたうえで安い家賃で貸し出し、次の住人に対しては告知もせずもとの家賃で貸し出すのだ。
こうして隠蔽されてしまえば、住まい探しの段階で我々がその物件の暗い過去を見抜くことは不可能だ。また、隣家など周辺の住宅であれば告知義務は発生しない。では、どうすればその物件が事故物件だと見抜くことができるのだろうか? 確実ではないが、いくつか見抜くためのヒントはある。
まずは、マンション名である。大きな事件が起きたマンションなどの場合、ほとぼりが冷めた後に外壁の色を変え、マンション名も変更させることがある。それにより暗いイメージを変え仕切り直しを図るのだ。検索に引っ掛かりにくくする効果なども期待できる。
例えば、「江東マンション神隠し殺人事件」で知られる江東区潮見のマンションがそのような方法をとっている。2008年、このマンションに住む20代の女性会社員が突然失踪、捜索願も出されたが、監視カメラの映像に外出した記録がないことから「神隠し事件」としてメディアで話題となった。その後、同じマンションに住む男が逮捕される。その男が彼女を拉致したうえ殺害。さらに遺体をバラバラにしていた。この舞台となったマンション「フィットエル潮見」は事件発生時、竣工からまだ半年も経っておらず3分の1近くがまだ空き室状態であったため、後日「スクエア潮見」への改称を余儀なくされている。
あとは、リフォームの痕跡からも、そこが事故物件であったかどうかの疑いをもつことができる。これには二つのパターンがある。一つは、風呂やキッチンなど、部屋の一部分だけがリフォームされているケース。これは血など体液による汚れを取り除くためにリフォームが行われたと推察することができる。もう一つのパターンは、集合住宅のなかで、その一室だけがフルリフォームされているケース。この場合は、過去にその部屋で火事が起きている可能性もある。このような場合は、一度不動産屋に聞いてみた方が良い。