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『教団X』で話題の芥川賞作家・中村文則の安倍政権批判、改憲阻止の決意に震えた! この危機感を共有せよ!

 格差の広がりの一方にある、歴史修正、ヘイト思想の拡大。そしてもうひとつ、時代を辿るのに象徴的な事件が2004年に起こった。イラクにおける日本人人質事件だ。

 中村は2002年に「銃」で新潮新人賞を受賞、すでに小説家としてデビューしていたが、この人質事件の発生を知ったとき、〈世論は彼らの救出をまず考える〉と思ったという。〈なぜなら、それが従来の日本人の姿だったから〉だ。しかし、安倍氏をはじめとする政府要人は「自己責任」をさけび、社会に渦巻いたのは「国の邪魔をするな」の大合唱。〈国が持つ自国民保護の原則も考えず、およそ先進国では考えられない無残な状態〉だった。

 このとき、中村は前述した戦時中の日本を美化したがった2人の友人のことを思い出した、という。不景気によって自信を失った人びとが「日本人」というアイデンティティにすがり、歴史修正に加担し、〈格差を広げる政策で自身の生活が苦しめられている〉にもかかわらず「強い政府」を求める……これは現在に通じる流れだが、中村はフロイトを引きながら〈今の日本の状態は、あまりにも歴史学的な典型の一つにある〉と論じる。

 こうして〈いつの間にか息苦しい国〉になっていった日本。ブレーキを失ったこの国の現状とはどんなものか。中村はそのひとつにメディアの「両論併記」を挙げる。

〈政府のやることに厳しい目を向けるのがマスコミとして当然なのに、「多様な意見を紹介しろ」という「善的」な理由で「政府への批判」が巧妙に弱められる仕組み。
 否定意見に肯定意見を加えれば、政府への批判は「印象として」プラマイゼロとなり、批判がムーブメントを起こすほどの過熱に結びつかなくなる。実に上手い戦略である。それに甘んじているマスコミの態度は驚愕に値する〉

 メディアもグルになるかたちで政権批判が封じられたいま、だからこそ中村は〈僕は九条は守らなければならないと考える〉と声をあげる。それは冒頭で紹介したように、国を支配する格差や息苦しさ、ブレーキのなさの果てにあるのは〈憲法改正と戦争〉だからだ。

〈九条を失えば、僕達日本人はいよいよ決定的なアイデンティティを失う。あの悲惨を経験した直後、世界も平和を希求したあの空気の中で生まれたあの文言は大変貴重なものだ。全てを忘れ、裏で様々な利権が絡み合う戦争という醜さに、距離を取ることなく突っ込む「普通の国」。現代の悪は善の殻を被る。その奥の正体を見極めなければならない。日本はあの戦争の加害者であるが、原爆・空襲などの民間人大量虐殺の被害者でもある。そんな特殊な経験をした日本人のオリジナリティを失っていいのだろうか。これは遠い未来をも含む人類史全体の問題だ〉

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