■山口組分裂を「血の雨がふる」「山一抗争の再来」と煽り続けたマスコミ しかし、その裏では……
今年の“事件”といえば、山口組の分裂騒動を取り上げないわけにはいかない。8月末に勃発した司忍六代目組長が支配する山口組と、それに反発して離脱した「神戸山口組」の分裂以降、メディアは「抗争勃発」というトーンでこの事件を煽り続けている。シノギと縄張りをめぐって、幹部のタマを取り合い、銃撃事件が頻発し、神戸やミナミ、新宿や赤坂でも血の雨が降る──。それは「週刊実話」「週刊大衆」「アサヒ芸能」といった御用達メディアだけでなく、他の一般週刊誌やテレビ・新聞なども、同様だ。
だが、現実には、本格的な抗争事件は起きていない。せいぜい小競り合い程度で、10月に長野県飯田市で山口組傘下団体幹部が暴力団関係者を射殺、逮捕、11月に三重県四日市市で山口組直系暴力団会長が手足を結束バンドで縛られた状態で撲殺されているのを発見されたが、これらも、山口組分裂と関係があるかは疑わしい。
ベテランのヤクザライターもこう語っている。
「今は暴対法があるから。ちょっと派手なことをやったら、親分までパクられて、組はガタガタになってしまう。そんな状況で血の雨とか、山一抗争の再来とかはありえない。完全に報道が先行している」
それでも、抗争を煽るような報道が起きているのは、3つ理由がある。ひとつめは、六代目山口組も神戸山口組も切り崩しのために銃弾のかわりに情報戦を展開しているからだ。「週刊実話」の編集長が神戸山口組からの情報に乗りすぎだとして、六代目山口組サイドの逆鱗に触れ、辞任に追い込まれるといった騒動も起きた。
2つめは、この情報戦に、警察も乗っかってきていることだ。実は、警察当局としては、マスコミが“抗争近し!”というような記事を載せれば載せるほど、取り締まりがしやすくなるし、もっといえば、捜査の予算もとれる。だから、抗争を煽るような情報をわざと流すのだ。全面抗争を書き立てている新聞各社やワイドショーの背中を押しているのは、他でもない捜査当局なのだ。
そして、3つめはもちろん当のマスコミ。売れ行き不振の新聞、雑誌にとって、山口組の内部抗争ネタは久しぶりの部数増につながるコンテンツだったため、警察や組から出てくる情報を針小棒大に煽って、話題を引っ張っているというのが実情なのだ。
本物の暴力団よりも「売らんかな主義」のマスコミのほうがずっと“ヤクザ”かもしれない。